オキクの復讐

 石嶋の訴えに、ユカを膝に抱いてしばらく黙っていたナミであったが、やがて口元をゆるませた。
「わたしがいつユカちゃんを見捨てるって言いました?」
「いや、あの時本当に怒っていらしたから…。」
「だいたい医師法の第19条に応招義務というのがあって、医師は診察治療のもとめがあった場合には、正当な事由がなければ拒んではいけないのですよ。そんなことしたら、義務違反で医師資格をはく奪されてしまいます。」
「そうなんでしょうけど…。」
「あの日以来、わたしもユカちゃんとヒロパパにとって、何が最善な方向なのかをずっと考えていました。」
「もう怒っていないんですか?」
「確かにあの時はちょっとエキサイトしましたが、自分も反省してます。」
「そうですか。よかった…。」
「ご両親を失ったことで、ユカちゃんはこころに大きな傷を負ったことは確かです。今でもきっと無意識に、居るはずもないお父さんとお母さんを探し求めているのでしょう。しかしユカちゃんはどんなになついてくれても、決して私のことをママとは呼びません。私がママでないことがちゃんとわかっているんですね。でもヒロパパはちがいます。ヒロパパが父親と同じ香りと感触である実の弟だからこそ、ユカちゃんはヒロパパのことを本当の父親として感じているのではないでしょうか。どんな子供でも2回も父親を失いたくないはずです。失いそうな気配を感じるとそれが大きなストレスとなって、きっと高体温になるのだと思います。」
 石嶋は黙ってナミの言葉に耳を傾けていた。
「どうでしょう、ユカちゃんを仲間はずれにしないで、ヒロパパのデートに連れて行ってあげたら…。将来どうなるかは別として、ユカちゃんもヒロパパとお付き合いしている方と仲良くなれたら、ストレスも軽減できると思います。お相手が嫌がるかどうかわかりませんが、ユカちゃんのようなおとなしくて可愛い女の子なら、きっと仲好くしてくれますよ。」
 ナミはそう言ってユカの髪を優しく撫ぜた。
「わかりました。ナミ先生のお話をよく考えてみます。でもよかった…、ナミ先生が怒っていないことがわかって、胸のもやもやが解消しました。」
 石嶋は顔を明るくして礼を言うと、ユカの手を取っていすから立ち上がった。
「あっ、それから…。ユカにまたなにかあったら、ナミ先生にご連絡してもかまいませんか?」