オキクの復讐

「どうかなぁ…。なんかあったような、なかったような…。悪いけどもう一度お願いできるかな。」
「えーっ、もう一回ですか?」
 嫌がった希久美だが、それでも身体は泰佑の唇に吸い寄せられていた。突然泰佑が希久美を抱きしめた。
「不思議だ、あの時と同じだ。体に力が満ちて来た。」
 ついに薬が切れたんだわ。今度は泰佑が希久美を抱きしめて力強いキスをした。希久美は、10年間このキスを待っていたことに気付いた。
「わかりました、石津先輩。菊江は今夜一晩、先輩のものになりますから…。好きにしてください。でも…壊しちゃだめですよ。」
 熱い喜びのうねりの中で、意識が薄れていく希久美は、こう言うのが精いっぱいだった。

「オキク。武士の情けだ。」
 外にいるテレサが、インカムのスイッチを切った。

「ごめんなさい。時間がかかっちゃって。」
 ナミが急患の処置を終えて戻って来ると、ベンチの上で泣いている希久美の肩をテレサが優しく抱いて慰めていた。
「どっ、どうしたの?」
「大丈夫よ。オキクは悲しくて泣いているんじゃないから。」
 テレサがウインクをしてナミに答える。
「石津先輩は?」
「ひっく、幸せな顔して、ひっく、ぐっすり寝てるわ。もう大丈夫よ。ひっく。」
 今度は泣きじゃくる希久美が答えた。
「あれからいったい何が起きたの?」
「まあ、話しはあとまわしにして、とりあえす打上げに行きましょう。ナミも帰れるんでしょ。」
 テレサが希久美を助け起こして、歩き始めた。ナミが慌てて後を追う。
「打上げって…。なんか軽すぎない。」
「いいのよ。」
「オキクったらまだ泣いてる。何があったのよ?」
「慌てないの、ゆっくり話してあげるから。」
「でも飲みに行くなら、高校の制服はまずいんじゃない。」
「そうね、ナミのロッカーに着替えあるでしょ。」
「あるけど…。なにオキクその歩き方、どうしたの?」
「ひっく、ちょっと痛くて…。」
「えっ?えっ?なんで?なんでよ?」
「ひっく、ひっく、ほっといてよ!」
「そうよね、いくら久しぶりだからって、あの回数はないわよねぇ。」
「あんた、聞いてたの!ひっく。」
「えーっ、何の話しなの?気が狂いそうだわ。早く聞かせてーっ。」
 仲良し三人娘は、肩を組んで廊下の奥へ消えて言った。

 希久美は、自宅の電話の受話器を置いた。
「誰からなんだ?」