オキクの復讐

『ちょっと、オキク。あんた何やってるの?』
 ナミの問いにも答えず、希久美は質問を続ける。
「安心して話してください。私はここにいるし、ずっと先輩を見ているから…。」
 泰佑は、希久美の腕の中で大きくため息をついた。
「何から話せばいいんだ…。」
「小さい頃の話ですよ。まぶたを閉じたら、ほら子供が見えたでしょ。」
「ああ…。」
「その子は何してるんですか?」
「…お母さんを探してるんだ。幼稚園で折り紙のリボンが上手く出来たから、見せたくて…。」
「お母さんは居ました?」
「見つかった。でもマイナスイオンが出る敷布団を売るとかで、知らない叔母さん達と相談している。」
「それでどうしたの。」
「話が終わるのを待ってた。」
「いい子ですね。」
「叔母さん達が帰ったから、お母さんを呼んだんだ。けど…呼んでも、呼んでも、こっちを見てくれない…。」
 希久美は、泰佑の髪をなぜながら黙って次の言葉を待った。
「その子は…頭にきて、折り紙をくしゃくしゃにして床に放り投げた。でも、そのごみですら、何に日もそのままになってた…。」
 知らずに泰佑の頭を抱く希久美の腕に、力がこもっていた。
「でも、そんなことばかりじゃないでしょ。」
「ああ、今度はお化粧台の前に居るお母さんを見つけた。これから訪問販売にいくから化粧しているらしい。一緒に連れて行ってくれるんだって。」
「よかったわね…。」
「行くとまたこの前の叔母さん達が待ってた。お母さんが、これから知らない人の家に行くから、ここで待ってなさいって言った。」
「どこで待ってたの?」
「小さな公園だよ。…待っても、待っても、お母さんは帰ってこなかった。暗くなって、怖くなってお母さんを探し歩いた。歩き疲れて、歩道でしゃがみ込んでいる時におまわりさんに拾われた。」
 希久美は泣きながら夜道を歩いている幼い泰佑を思い描いた。胸が痛んだ。
「警察に呼ばれて交番に来たお母さんは、これから公園へ迎えに行くところだったと、盛んに言いわけをしていた。でもね、おまわりさんにその公園の位置を尋ねられて、お母さんは答えることができなかったんだよ。」
 警官と母親の言い合いを見ながら、交番のベンチでひとりぽつんと座る泰佑の幼い姿を思い描いた。もう希久美は涙を押さえることができなかった。もちろん、インカムを通じて話を聞いていた外のふたりの目にも、涙が溢れていた。