オキクの復讐

『オキク、ここで許してあげるのよ。』
 インカムからナミの声が聞こえた。希久美はそれでも何も言わなかった。ただ、泰佑の額を撫ぜ続ける。
『何してるの?はやく許しの言葉を与えるのよ。』
 希久美から出てきた言葉は違っていた。
「石津先輩、絶対に許しません。」
「ああ、そうだろうな…。わかってたよ。」
 希久美は、今度は泰佑の手を握った
「ところで、なんでこんなになっちゃたんですか?」
「ふふふ、情けない。」
 泰佑のその後の言葉が出てこない。希久美は握っている手の力を強め、泰佑を力づけた。励まされた泰佑がようやく口をひらく。
「実はね…。」
 泰佑は、シェラトンホテルで希久美に話したと同じストーリーを、かすれる声でゆっくりと話し始める。
「…。好きになった女性を男として愛せない。女性としての幸せをあげることができない。そんな自分が息もできないくらい情けなくて、彼女のことも自分のことも忘れたくて仕事してたら、いつの間にかここに運ばれてたんだよ。」
『うわっ、ねえこれってすごくない。石津先輩の頭の中にある、まぎれもない本心を聞いたのよね…。』
『シッ!』
 テレサの興奮した声がイヤホンを通じて聞こえてきた。
「石津先輩、その女のひとがそんなに好きなんですか?」
「ごめん、菊江にはわるいけど…。」
「その女、やめた方がいいですよ。石津先輩を殴ったり蹴ったり、薬盛ったり、挙句の果てに遊びで先輩をホテルに誘ったりしたんでしょ。何考えてるかわかりません。」
「でも、何やらせてもカッコいい女性なんだぜ。焼いてるのか?」
「違います!もっとも死んでしまった私には関係ないですけどね。」
「安心しろ、親友がお見合いしている相手なんだから、これ以上近づかないよ。」
「お見合いだなんて…。」
『そんなこといいから!薬が効いてる時間は短いのよ、次へ行って!』
 ナミに遮られて、希久美の質問は次の段階へと進む。
「でも、どうして私とだけできたんでしょうね?」
「そうだね、どうしてかね。」
「私と出会う、もっと、もっと前のこと話して下さいよ。」
 泰佑は、今度は何も答えなかかった。何かが飛び出さないように、まぶたと口を固く閉じているようだった。希久美はベッドにあがると、泰佑の傍らに横たわり、腕枕をして泰佑の頭を包んだ。泰佑は、希久美の香を体に取り込むように深く息を吸った。