オキクの復讐

「おかしいんじゃないですか、ユカちゃんのこと考えているようなこと言ってますが、一番大切なことから逃げています。ユカちゃんと一緒にいることを選んで、もし仕事が上手くいかなくなったらユカちゃんのせいにするんですか?ユカちゃんと離れることを選んで、結婚生活が上手くいかなくなったら、ユカちゃんに負い目があったからって言うんですか?」
「何も先生、そんなに怒らなくても…。」
「いいですか、大切なことは石嶋さんの想いがどこにあるかなんじゃないですか?仕事が好きなんですか?その女性が好きなんですか?ユカちゃんが好きなんですか?おい、石嶋隆浩。お前の想いはどこにあるんだ。」
 待合室まで聞こえるほどの大声に、石嶋は震えあがった。看護師が止めに入るか悩むほどの剣幕である。
「この際ユカちゃんなんか考えなくていい。あなたの想いがどこにあるかで決めればいいんです。それで決めたことなら、それがもしユカちゃんと離れることであっても、ユカちゃんはそれを受け入れなくてはいけないんです。いや絶対わかってくれます。今日つらくても、結果的に明日は幸せになれるんです。」
 興奮のせいか、なぜかナミの目に涙がにじんでいた。
「だから、今こうして目の前に座っている石嶋さんは、情けないひきょう者にしか見えません。診察は終わりです。お帰り下さい。次の方どうぞ!」
 それだけ言うと、ナミは石嶋を見ることもなくカルテのモニターに顔を埋めた。だから、石嶋がどんな表情で出て行ったのか、ナミは知ることもなかった。

「青沼、1階の受付にお客さんだぞ。」
「今日は別に約束なかったはずなのに…。」
「石津ミチエさんだって。4階の応接ルームに通すか?」
 泰佑のおばあちゃん?
「いえ、私が1階に行きます。」
 希久美は意外な訪問者に、胸騒ぎを覚えながら1階の待ち合わせロビーへ降りていった。受付に着くとフロアの隅で不安そうに希久美を待つミチエの姿が見えた。その小さくなった肩には、ロビーで右往左往する大勢の来客に圧倒された心細さが現れていた。緊張しているのか、話し方も以前泰佑の家で会った時とは違ってぎこちない。
「突然おじゃましちゃって。ご迷惑だったですね。」
「いえ…。」
「本当にごめんなさいね。でもこの会社は大きいわね。人が大勢行き来して、なんか東京駅に居るみたい。」