春が訪れた。満開の桜が上京した
ばかりの進藤朱鳥を迎えていた。

大学を卒業し、新聞カメラマンの
卵として就職が決まった朱鳥。
夢だった仕事に就け、嬉しい半面
慣れない東京での生活に不安を
少なからず抱いていた。

就職先の先輩の計らいで、上京
しても住む所はあった。

青空学園という児童養護施設で
手伝いをする代わりに部屋や、
食事は出してもらえるらしい。

坂の上に建つ施設の前には巨大
な桜の樹が立っている。

穏やかな風が吹く度に花びらが
散り、雪のようにも見えた。

桜に目がいってしまい、朱鳥は
周りを気にすることもなく、道路
を歩いていた。

車が来ていることにも気づかず、
また車も死角に入った朱鳥には
気がつかなかった。

「…っ、危ねぇな!!」不意に身体
が引っ張られ、朱鳥の脇をダンプ
カーが通り過ぎて行った。

朱鳥は驚いて、その場に座り込み
しばらく放心状態だった。

「って…!!」背後で声がして、
思わず振り返ると、白い服を着た
少年の姿があった。

苦しそうな表情で壁に身体を
寄りかからせていた。