彼女はなぜかスペインの偉大なギタリスタ『ナルシソ・イエペス』氏を想った。イエペス氏は1952年に、パリのカフェで映画監督のルネ・クレマンと偶然知り合い、映画史上屈指の名作となるあの『禁じられた遊び』の音楽担当を依頼される。当時24歳のイエペスは映画の音楽の編曲・構成、演奏を一本のギターだけで行った。そして、その映画が公開されると、メインテーマ曲「愛のロマンス」が大ヒットし、彼は世界的に有名なギタリスタとなった。
世界的に活躍した彼も、1990年頃に、悪性リンパ腫に冒されている事が発覚し、医師から演奏活動の中止を忠告されたが、ひるむことなくその後も演奏活動を続け、1996年3月にサンタンデール音楽祭に出演したのが最後のステージとなり、1997年5月3日に69歳で死去した。
「芸術は神のほほえみである」との信念で年間120回にもおよぶ演奏会を、30年近く世界各地で展開したイエペス。彼が紡ぎ出す弦の音には、常に『家族愛』の香りが漂っていると汀怜奈は感じていた。
汀怜奈は無性にギターが弾きたくなった。ギタリスタとしてのインスピレーションは、こんな平凡な暮らしの中にも存在しているのだ。
「佑樹さん、そう思いませんか?」
汀怜奈はちょっとした感動に浸って、自分の言葉への同意を佑樹に求めた。しかし佑樹の心は、どうも彼女とは別なところにあったようだ。彼の視線の先をたぐると、それはアーケードの反対側にいる女子高生の一群に注がれていた。
佑樹の顔をあらためて見ると、あらゆる部分が緩んでいた。鼻の下が伸びるとはよく言ったものだ。今の佑樹の顔がまさにその顔で、あの女子高生の一群の中に、佑樹の気になる女の子がいるということは誰の目にも明らかだ。
すると佑樹は何かを思いついたように、突然買い物袋を地面に放り投げ、汀怜奈の前で手を合わせて両膝をついた。
「先輩…お願いがあります。」
「な、なんですか…急に…。」
「自分に、ギターを教えてもらえませんか?」
やはり佑樹は汀怜奈の話を全く聞いていなかった。そんな相手の非礼をプライドの高い彼女が、許すはずもない。汀怜奈は無言で歩き去っていく。
佑樹が買い物袋を抱えて慌てて追いかけて生きた。
「先輩、お願いしますよ。」
背後からの佑樹のお願いに歩調も緩めず汀怜奈が冷たく言葉を返す。
「どうして今、急にギターなのですか?」
世界的に活躍した彼も、1990年頃に、悪性リンパ腫に冒されている事が発覚し、医師から演奏活動の中止を忠告されたが、ひるむことなくその後も演奏活動を続け、1996年3月にサンタンデール音楽祭に出演したのが最後のステージとなり、1997年5月3日に69歳で死去した。
「芸術は神のほほえみである」との信念で年間120回にもおよぶ演奏会を、30年近く世界各地で展開したイエペス。彼が紡ぎ出す弦の音には、常に『家族愛』の香りが漂っていると汀怜奈は感じていた。
汀怜奈は無性にギターが弾きたくなった。ギタリスタとしてのインスピレーションは、こんな平凡な暮らしの中にも存在しているのだ。
「佑樹さん、そう思いませんか?」
汀怜奈はちょっとした感動に浸って、自分の言葉への同意を佑樹に求めた。しかし佑樹の心は、どうも彼女とは別なところにあったようだ。彼の視線の先をたぐると、それはアーケードの反対側にいる女子高生の一群に注がれていた。
佑樹の顔をあらためて見ると、あらゆる部分が緩んでいた。鼻の下が伸びるとはよく言ったものだ。今の佑樹の顔がまさにその顔で、あの女子高生の一群の中に、佑樹の気になる女の子がいるということは誰の目にも明らかだ。
すると佑樹は何かを思いついたように、突然買い物袋を地面に放り投げ、汀怜奈の前で手を合わせて両膝をついた。
「先輩…お願いがあります。」
「な、なんですか…急に…。」
「自分に、ギターを教えてもらえませんか?」
やはり佑樹は汀怜奈の話を全く聞いていなかった。そんな相手の非礼をプライドの高い彼女が、許すはずもない。汀怜奈は無言で歩き去っていく。
佑樹が買い物袋を抱えて慌てて追いかけて生きた。
「先輩、お願いしますよ。」
背後からの佑樹のお願いに歩調も緩めず汀怜奈が冷たく言葉を返す。
「どうして今、急にギターなのですか?」



