汀怜奈は、名も知らぬ河の水面を見ていた。河の流れはゆっくりだがとにかく川幅は広い。なぜかわからないが、向こう岸に行かなければならないと、理由の無い焦燥感にさいなまれながら、汀怜奈は河川敷に立っている。
「何をためらっているのじゃ。」
聞き覚えのあるかすれた声が背後からした。汀怜奈が振り返ると、そこにロドリーゴ氏が居た。スペイン人の彼が、日本語をしゃべっていることが、彼女はまったく気にならなかった。
「汀怜奈、何をためらっているのじゃ。」
「ロドリーゴ先生。どうやったら向こう岸に渡れるかと考えておりまして…。」
「考えるまでもない、その足を進めればよいではないか?」
「ですが…。」
「何を恐れておるのだ。」
「河底は深いかもしれませんし、足を取られたら流されてしまいますし…。」
「見えないものを恐れて、一生ここに留まるつもりか。まず一歩を踏み出し、川底の深さを身体で測れば良い。」
ロドリーゴ氏は、そう言って優しく汀怜奈の背を押した。仕方なく、河の水に一歩踏み出す。思っていたより水は冷たかった。振り返ると、ロドリーゴ氏が笑顔で自分を見つめている。勇気を出してもう一歩。そしてもう一歩。歩んでいくうちに、水面が膝まで、そして腰まで上がってきた。
「先生、これ以上進むのは無理です。」
先生に訴えようと振り返ってみると、いつの間にかロドリーゴ氏の姿はない。
「あっ。」
河の底にある石に足を取られて、汀怜奈は水面に倒れ込む。するとなぜか、河全体の流れが激流に変化する。慌てて、もとの岸に戻ろうともがく汀怜奈ではあったが、もう激流の力にあがなう事が出来ず、身体ごと下流に流された。
もう足が河底につかない。激流に揉まれて、溺れるのは時間の問題だ。水面を叩き、虚しくもがいているうちに、手にあるものが当たった。それを必死に手繰り寄せ、見ると流木である。汀怜奈は身体全体で必死にしがみついた。
「何をためらっているのじゃ。」
聞き覚えのあるかすれた声が背後からした。汀怜奈が振り返ると、そこにロドリーゴ氏が居た。スペイン人の彼が、日本語をしゃべっていることが、彼女はまったく気にならなかった。
「汀怜奈、何をためらっているのじゃ。」
「ロドリーゴ先生。どうやったら向こう岸に渡れるかと考えておりまして…。」
「考えるまでもない、その足を進めればよいではないか?」
「ですが…。」
「何を恐れておるのだ。」
「河底は深いかもしれませんし、足を取られたら流されてしまいますし…。」
「見えないものを恐れて、一生ここに留まるつもりか。まず一歩を踏み出し、川底の深さを身体で測れば良い。」
ロドリーゴ氏は、そう言って優しく汀怜奈の背を押した。仕方なく、河の水に一歩踏み出す。思っていたより水は冷たかった。振り返ると、ロドリーゴ氏が笑顔で自分を見つめている。勇気を出してもう一歩。そしてもう一歩。歩んでいくうちに、水面が膝まで、そして腰まで上がってきた。
「先生、これ以上進むのは無理です。」
先生に訴えようと振り返ってみると、いつの間にかロドリーゴ氏の姿はない。
「あっ。」
河の底にある石に足を取られて、汀怜奈は水面に倒れ込む。するとなぜか、河全体の流れが激流に変化する。慌てて、もとの岸に戻ろうともがく汀怜奈ではあったが、もう激流の力にあがなう事が出来ず、身体ごと下流に流された。
もう足が河底につかない。激流に揉まれて、溺れるのは時間の問題だ。水面を叩き、虚しくもがいているうちに、手にあるものが当たった。それを必死に手繰り寄せ、見ると流木である。汀怜奈は身体全体で必死にしがみついた。



