凪の海

「とりあえず先輩は、ビールでいいですよね。」
「えっ、ビール?」
「ここカフェバーだから、生が有りますよ。K—1の話はやっぱビールじゃなきゃね。」
 目の前に置かれた冷えたビールグラス。喉が湧いていたのに加え、汀怜奈も嫌いな方じゃなかったので、自然と喉がなる。
「じゃ、とりあえず乾杯。」
 佑樹に促されて汀怜奈はひと口ゴクリ。朝の飛行機で福岡から帰り路。朝食もそこそこのスキッパラの汀怜奈には、ビールが相当の速さで五臓六腑に染み渡る。結局、一杯目は一気に飲んでしまった。
 佑樹は、汀怜奈のために二杯目をオーダーしながら、話を切り出す。
「先輩、そろそろハント・バンナ戦の話を…。」
「バンナ・ハント戦です…だろ。」
「ええ、実は自分もその感動の闘いを高校の図書館インターネットルームで観まして…。」
「ちょっと…キミ高校生?」
「ええ、」
「だったら、ビールなんかとんでもない。」
「大丈夫ですよ。3年で、もうすぐ大学生です。結構大人顔だから、周りの人も気にしません。」
「君!」
「あ、自己紹介まだでしたよね。自分は佑樹と言います。」
「だから、佑樹さんは未成年でしょ!」
「正直なところ、僕はあのハイキックを繰り出したバンナよりも、顔面を骨折させられながらも、リングの中央に進み出ようとしたハントの方が感動的だったんですが…。」
「ちょっとお待ちになって、それは佑樹さん。K�1グランプリのバンナとハントの闘いの歴史がわかっていない人のセリフだわ…だ。」
 佑樹の話しの振りに、汀怜奈がまんまと乗せられてしまった。果たして、汀怜奈はビールを挟んで高校生に、バンナ・ハントの闘いの歴史と史上に残るパリの対戦について、熱く語りだした。

 午後5時だと言うのに、汀怜奈はもう出来あがっていた。大好きなK—1の話しをするうちに、自然とビールグラスを重ねていたのだ。佑樹は話しを聞くことに夢中で、ほとんどビールは飲んでいない。それとも先輩を前に自重してるのだろうか。