ミチエが女子高生なんて母が知ると話しがややこしくなる。
「もうお帰りになりはったんか?」
「明後日までは居るんとちゃうか。」
「ならば、お土産の礼を返さへんとあきませんやろ。」
「そこまでせんでええて。」
「いけません。不義理に思われたら心外やし。そうや、阿闍梨餅がええわ。今、買ってくるさかいに…。」
母親は、部屋着を外着に着替えると、いそいそと買い物に出てしまった。
正直、泰滋はミチエと顔を合わせるのが面倒だった。日頃自分のことを手紙で語っている泰滋だ。なにやら言いようの無い恥ずかしさもあり、直接顔を合わせたとしても、何を話したらいいか見当もつかない。本来は『会う』ということには、相手の話しを聞き、相手を理解する目的があるから意味がある。向こうは手紙で自分のこと良く知っているのだから、こちらとしては会う必要も感じない。この自分勝手な理屈は、この時点では彼がミチエに対してなんら個人的興味を持っていなかったことを意味する。
「おかあはん、余計なことせんでいいのに…。」
畳にごろ寝しながらつぶやく泰滋。優しい息子は、いそいそと出かけた母親の顔を曇らせるわけにもいかないことも、よく理解していた。
翌日、泰滋は阿闍梨餅の包みを手に、ミチエの土産を家に届けてくれた学友を探すためにキャンパスを走りまわった。ようやく見つけ出して、昨日焼きハマグリをいただいたお礼に、ミチエに阿闍梨餅を届けてもらいたいと依頼したが、江戸時代の飛脚でもあるまいし、ふたりの間を何度も行ったり来たりする暇はないと、跳ね付けられてしまった。
「泊まっているところ教えたるさかいに、自分で届ければええやないか。」
それもそうなんだが…。泰滋は自分の今の心情をどう説明したらいいかわからない。仕方なく、学友から三条通りに面した日昇館がその旅館だと教えてもらい、みずから行かざるを得ない状況となった。
泰滋は旅館に着いたものの、入口で様子を伺いながら、入るのを躊躇していた。しばらく旅館の前にたたずんでいた泰滋だが、やがて女子高生の姿がまったく見えないことに気づいた。学友に教えてもらったのは確かにこの旅館だ。間違いない。ははぁ、みんな集団で観光へ出てるんやな。泰滋はそう思いつくと、安心して旅館に踏み込んだ。
「あの…。」
泰滋は旅館の法被を着ている玄関番を捕まえて話しかける。
「おいでやす。」
「もうお帰りになりはったんか?」
「明後日までは居るんとちゃうか。」
「ならば、お土産の礼を返さへんとあきませんやろ。」
「そこまでせんでええて。」
「いけません。不義理に思われたら心外やし。そうや、阿闍梨餅がええわ。今、買ってくるさかいに…。」
母親は、部屋着を外着に着替えると、いそいそと買い物に出てしまった。
正直、泰滋はミチエと顔を合わせるのが面倒だった。日頃自分のことを手紙で語っている泰滋だ。なにやら言いようの無い恥ずかしさもあり、直接顔を合わせたとしても、何を話したらいいか見当もつかない。本来は『会う』ということには、相手の話しを聞き、相手を理解する目的があるから意味がある。向こうは手紙で自分のこと良く知っているのだから、こちらとしては会う必要も感じない。この自分勝手な理屈は、この時点では彼がミチエに対してなんら個人的興味を持っていなかったことを意味する。
「おかあはん、余計なことせんでいいのに…。」
畳にごろ寝しながらつぶやく泰滋。優しい息子は、いそいそと出かけた母親の顔を曇らせるわけにもいかないことも、よく理解していた。
翌日、泰滋は阿闍梨餅の包みを手に、ミチエの土産を家に届けてくれた学友を探すためにキャンパスを走りまわった。ようやく見つけ出して、昨日焼きハマグリをいただいたお礼に、ミチエに阿闍梨餅を届けてもらいたいと依頼したが、江戸時代の飛脚でもあるまいし、ふたりの間を何度も行ったり来たりする暇はないと、跳ね付けられてしまった。
「泊まっているところ教えたるさかいに、自分で届ければええやないか。」
それもそうなんだが…。泰滋は自分の今の心情をどう説明したらいいかわからない。仕方なく、学友から三条通りに面した日昇館がその旅館だと教えてもらい、みずから行かざるを得ない状況となった。
泰滋は旅館に着いたものの、入口で様子を伺いながら、入るのを躊躇していた。しばらく旅館の前にたたずんでいた泰滋だが、やがて女子高生の姿がまったく見えないことに気づいた。学友に教えてもらったのは確かにこの旅館だ。間違いない。ははぁ、みんな集団で観光へ出てるんやな。泰滋はそう思いつくと、安心して旅館に踏み込んだ。
「あの…。」
泰滋は旅館の法被を着ている玄関番を捕まえて話しかける。
「おいでやす。」



