「その時に…その時に聞こえてくる声が、ロドリーゴ先生がおっしゃっていた『ヴォイス』?」
今度は、汀怜奈が痛いくらいに佑樹の手を握り返してきた。
「痛てっ、せ、先輩…自分にはそんな高名な先生と天才ギタリスタのやりとりなど到底理解できませんが…どうも魔法はかかったようですね。さあ、天才ギタリスタ、自分が修理したこの橋本ギターを持って、ステージへいってらっしゃい。」
汀怜奈は、佑樹に促されて立ち上がった。そして橋本ギターを手にゆっくりとステージへあゆみはじめる。佑樹は、そんな彼女の背に向かって最期の魔法を掛ける。
「ちなみに、修理してわかったんですが…その橋本ギター、トップ板の裏に貼ってあった札をよくよく見ると…『ストップ』と書いてありました。じいちゃんが趣味で作ったギターだけど、橋本師匠が工房のギターと認めてくれて、メーカーラベルを貼ってくれたんでしょう。」
汀怜奈の瞳にもう迷いはなかった。
佑樹の手によって魔法がかけられた汀怜奈は、ロウソクの灯に浮かび上がるステージに進み出た。大勢の聴衆がいたのにもかかわらず、誰も彼女の登場に拍手する者はいない。もう震災のせいでその力も残っていないのだろう。
汀怜奈は、そんなオーディエンスひとりひとりの顔を見つめた。どの顔も疲れきっている。そのうつろな瞳はいったい何を見ているのだろうか。
『たとえ私がどんなに天才ギタリスタだとしても、悲しみに漂うみなさんの心を、私の演奏で揺さぶり、励まし癒そうなんてできっこありません。ただ、私に出来ることは、みなさんの声を聞くことだけです。さあわたしのギターで、みなさんの前に凪の海を出現させましょう。あなたの心の声を聞かせてください。』
汀怜奈は弾き始めた。曲はフランシスコ・タレガ作曲「アルハンブラ宮殿の思い出」タレガが、ここグラナダにあるアルハンブラ宮殿を訪れた際の印象を元に1896年に作曲された。トレモロ奏法を活用した曲としても名高く、右手の薬指、中指、人差し指で一つの弦を繰り返しすばやく弾くことによりメロディを奏する。高度な演奏テクニックを有するギタリスタだけに演奏が許される、あまりにも有名な名曲である。
今度は、汀怜奈が痛いくらいに佑樹の手を握り返してきた。
「痛てっ、せ、先輩…自分にはそんな高名な先生と天才ギタリスタのやりとりなど到底理解できませんが…どうも魔法はかかったようですね。さあ、天才ギタリスタ、自分が修理したこの橋本ギターを持って、ステージへいってらっしゃい。」
汀怜奈は、佑樹に促されて立ち上がった。そして橋本ギターを手にゆっくりとステージへあゆみはじめる。佑樹は、そんな彼女の背に向かって最期の魔法を掛ける。
「ちなみに、修理してわかったんですが…その橋本ギター、トップ板の裏に貼ってあった札をよくよく見ると…『ストップ』と書いてありました。じいちゃんが趣味で作ったギターだけど、橋本師匠が工房のギターと認めてくれて、メーカーラベルを貼ってくれたんでしょう。」
汀怜奈の瞳にもう迷いはなかった。
佑樹の手によって魔法がかけられた汀怜奈は、ロウソクの灯に浮かび上がるステージに進み出た。大勢の聴衆がいたのにもかかわらず、誰も彼女の登場に拍手する者はいない。もう震災のせいでその力も残っていないのだろう。
汀怜奈は、そんなオーディエンスひとりひとりの顔を見つめた。どの顔も疲れきっている。そのうつろな瞳はいったい何を見ているのだろうか。
『たとえ私がどんなに天才ギタリスタだとしても、悲しみに漂うみなさんの心を、私の演奏で揺さぶり、励まし癒そうなんてできっこありません。ただ、私に出来ることは、みなさんの声を聞くことだけです。さあわたしのギターで、みなさんの前に凪の海を出現させましょう。あなたの心の声を聞かせてください。』
汀怜奈は弾き始めた。曲はフランシスコ・タレガ作曲「アルハンブラ宮殿の思い出」タレガが、ここグラナダにあるアルハンブラ宮殿を訪れた際の印象を元に1896年に作曲された。トレモロ奏法を活用した曲としても名高く、右手の薬指、中指、人差し指で一つの弦を繰り返しすばやく弾くことによりメロディを奏する。高度な演奏テクニックを有するギタリスタだけに演奏が許される、あまりにも有名な名曲である。



