「…シゲか…今日は工房の手伝いは休みの日だったろう。いったいなんだよ。」
「師匠。この前、仕事を手伝ってもらっているのに、金を払わないのは申し訳ないって言ってたでしょう。」
「ああ、なんだ、今更給金が欲しくなったか。」
「給金はいりません。その替り…。」
「なんだ。」
「その替り、ギターをひとつ、自分に作らせてください。」
傾いた日差しが青めいた空に浮かぶ雲を赤く染める。そろそろ夕焼けが始まろうとした頃、ミチエが、ヤスエの手を引きながら、庭の木戸門をくぐる。橋本ギター工房の小さな庭から、恥ずかしそうに工房の中をのぞくミチエ。
「やあ、ミチエさん。」
庭で作業をしていた工房の職人が、ミチエに気づいて声をかける。
「こっ、こんにちは。」
「シゲを呼びに来たのかい?」
「ええ、すみません。」
「別に、俺たちが引き止めているわけじゃないんだが…どうも、ミチエさんの旦那は、なにかはじめるとすぐ熱中してしまう癖があるようだな。」
「はい、子どもみたいですみません。」
職人は、笑いながら、工房の中に入っていく。程なくして泰滋が出てきた。
「すまん、すまん。キリのいいところと思いながら、つい長引いちゃって…。」
泰滋の手にはまだ組み立て中のギターが握られていた。
「でも、見てくれ。ここまでできたよ。」
泰滋は嬉しそうに、手にしているギターをミチエに見せた。
「ギターらしい形にはなってきたわね。」
「そうだろ…。」
手にしたギターを、あちこちから眺めながら、悦に入る泰滋。
「実はね、けっこう自分なりの工夫をしてね。おっと…ミチエ、体が重いだろう。立ってないで、ここに座れよ。」
泰滋は、切り株でできたベンチをミチエに勧めた。ミチエは勧められるがままに、大きくなったお腹を揺すりながら、よっこいしょっと座る。
「ギターの柄はね、小さな日本人の手にあうように、握りやすく小ぶりにしたし…」
得意そうに、自分の工夫を語る泰滋。長々と続く彼の話しに、ヤスエはとっくに飽きてしまい、庭に下りて雑草の花を摘んで遊び始めた。しかし、ミチエは相変わらずそのすずしい目元にとてつもない優しい笑みを浮かべて、辛抱強く泰滋の話しに耳を傾けていた。
泰滋は時より、嬉しそうにミチエのお腹をさすった。ギターの話しをそのお腹にも聞かせているようだ。
「そのギターは出来上がったら、いい音が出るかしら。」
「師匠。この前、仕事を手伝ってもらっているのに、金を払わないのは申し訳ないって言ってたでしょう。」
「ああ、なんだ、今更給金が欲しくなったか。」
「給金はいりません。その替り…。」
「なんだ。」
「その替り、ギターをひとつ、自分に作らせてください。」
傾いた日差しが青めいた空に浮かぶ雲を赤く染める。そろそろ夕焼けが始まろうとした頃、ミチエが、ヤスエの手を引きながら、庭の木戸門をくぐる。橋本ギター工房の小さな庭から、恥ずかしそうに工房の中をのぞくミチエ。
「やあ、ミチエさん。」
庭で作業をしていた工房の職人が、ミチエに気づいて声をかける。
「こっ、こんにちは。」
「シゲを呼びに来たのかい?」
「ええ、すみません。」
「別に、俺たちが引き止めているわけじゃないんだが…どうも、ミチエさんの旦那は、なにかはじめるとすぐ熱中してしまう癖があるようだな。」
「はい、子どもみたいですみません。」
職人は、笑いながら、工房の中に入っていく。程なくして泰滋が出てきた。
「すまん、すまん。キリのいいところと思いながら、つい長引いちゃって…。」
泰滋の手にはまだ組み立て中のギターが握られていた。
「でも、見てくれ。ここまでできたよ。」
泰滋は嬉しそうに、手にしているギターをミチエに見せた。
「ギターらしい形にはなってきたわね。」
「そうだろ…。」
手にしたギターを、あちこちから眺めながら、悦に入る泰滋。
「実はね、けっこう自分なりの工夫をしてね。おっと…ミチエ、体が重いだろう。立ってないで、ここに座れよ。」
泰滋は、切り株でできたベンチをミチエに勧めた。ミチエは勧められるがままに、大きくなったお腹を揺すりながら、よっこいしょっと座る。
「ギターの柄はね、小さな日本人の手にあうように、握りやすく小ぶりにしたし…」
得意そうに、自分の工夫を語る泰滋。長々と続く彼の話しに、ヤスエはとっくに飽きてしまい、庭に下りて雑草の花を摘んで遊び始めた。しかし、ミチエは相変わらずそのすずしい目元にとてつもない優しい笑みを浮かべて、辛抱強く泰滋の話しに耳を傾けていた。
泰滋は時より、嬉しそうにミチエのお腹をさすった。ギターの話しをそのお腹にも聞かせているようだ。
「そのギターは出来上がったら、いい音が出るかしら。」



