塗装は薄すぎても厚すぎてもいけない。厚すぎると音質の良さや木の美しさを塗りこめてしまう。塗料は調合したニスを使い、刷毛やたんぽで丹念に仕上げる。その都度乾かしながら何回も繰り返す作業はとても長い時間がかかるのだが、この工程を丁寧に行うことで、ギターの振動への影響が小さい塗膜を形成し、見た目にも美しい仕上がりのギターが作り出される。
仕上げ。塗装の工程を終え、十分に乾燥させたギターはいよいよ仕上げの作業に入る。音作りに大きな影響を与える駒の接着場所の塗装をノミで削る。ここをフラットに削って駒を隙間なく接着することで、弦の振動を最高の効率で表面板に伝えることができる。そして、最後の仕上げでナットを調整し、音色の良さと弾き易さを最大限にまで引き出す努力を尽くす。もちろん、ナットとサドルは一本ずつのギターに合うように手作りされたものであり、後の調整まで考慮して最適の状態に仕上げる。そしてやっと出荷が待たれる楽器として完成されるのだ。
楽器として完成するのにどれほどの時間が必要なのだろうか。材料として長期間乾燥させ、ひとつひとつのパーツは、その都度手加工でされ、ひとつ組み上げてはニカワを乾燥させ、またひとつ組み上げては乾燥させる。挙げ句の果てに、ニスのうす塗りと乾燥を気の遠くなるほど繰り返す。ある著名なギター工房では、発注から納品まで三年から五年待ちは当たり前とも聞く。
百万単位のギターを作るならいざ知らず、大量生産のシステムを持たない小さな手作り工房が、大衆的なギター作りを目指すなど、到底ビジネスになるわけがない。しかし、橋本師匠は、そのモノづくりポリシーを固持し、工房の業態を変えるつもりは全くないようであった。
『ええか、わしらは楽器づくりの職人だ。その楽器というもんはな、奏でる人がおってはじめて楽器になる。決して置いて眺めるもんではない。見た目の美しさより、常に弾き手のことを考えろ。』
工房の職人達の不出来を叱る時の橋本師匠の口癖だ。泰滋は、そんな橋本師匠の頑固さが好きであった。しかも、もともと工作好きの性分である彼は、職人達の手で作り上げられるギターを眺めながら、ギター工房での手伝いの日々を楽しく過ごしていた。
「パパ、なんだかこの頃楽しそうね。」
「そうかなぁ…。いつもと変わらないと思うけど。」
仕上げ。塗装の工程を終え、十分に乾燥させたギターはいよいよ仕上げの作業に入る。音作りに大きな影響を与える駒の接着場所の塗装をノミで削る。ここをフラットに削って駒を隙間なく接着することで、弦の振動を最高の効率で表面板に伝えることができる。そして、最後の仕上げでナットを調整し、音色の良さと弾き易さを最大限にまで引き出す努力を尽くす。もちろん、ナットとサドルは一本ずつのギターに合うように手作りされたものであり、後の調整まで考慮して最適の状態に仕上げる。そしてやっと出荷が待たれる楽器として完成されるのだ。
楽器として完成するのにどれほどの時間が必要なのだろうか。材料として長期間乾燥させ、ひとつひとつのパーツは、その都度手加工でされ、ひとつ組み上げてはニカワを乾燥させ、またひとつ組み上げては乾燥させる。挙げ句の果てに、ニスのうす塗りと乾燥を気の遠くなるほど繰り返す。ある著名なギター工房では、発注から納品まで三年から五年待ちは当たり前とも聞く。
百万単位のギターを作るならいざ知らず、大量生産のシステムを持たない小さな手作り工房が、大衆的なギター作りを目指すなど、到底ビジネスになるわけがない。しかし、橋本師匠は、そのモノづくりポリシーを固持し、工房の業態を変えるつもりは全くないようであった。
『ええか、わしらは楽器づくりの職人だ。その楽器というもんはな、奏でる人がおってはじめて楽器になる。決して置いて眺めるもんではない。見た目の美しさより、常に弾き手のことを考えろ。』
工房の職人達の不出来を叱る時の橋本師匠の口癖だ。泰滋は、そんな橋本師匠の頑固さが好きであった。しかも、もともと工作好きの性分である彼は、職人達の手で作り上げられるギターを眺めながら、ギター工房での手伝いの日々を楽しく過ごしていた。
「パパ、なんだかこの頃楽しそうね。」
「そうかなぁ…。いつもと変わらないと思うけど。」



