「なんだと…わしは、お前に帰れとは言っとらんぞ。」
「でも…。」
「お前じゃない、お前のため息を何とかしろと言っておるんだ。」
腰を浮かした泰滋の腕を引き取ってもう一度座らせると、初老の酔っぱらいは盃を差し出す。
「とにかく飲め。」
「いや…結構ですから。」
「いいから飲め。」
「いや…。」
「お前、目上のモノが酒を勧めているのに、盃を取らぬなどとは無礼千万だ。」
「いえ、おすすめいただいている酒が嫌ではないんです。その盃が嫌なんです。」
「盃?」
「ええ…。」
「…なぜだ。」
「ヒビが入っているから。」
「なんだと。」
初老の酔っぱらいは、手にした盃を回しながらすみずみまで舐めるように検見した。
「ヒビなどまったくないではないか。愚弄するのもいい加減にせい。」
初老の酔っぱらいは、盃を握ると怒声とともに泰滋の顔の前に差し出す。すると、盃が彼の手の中で真っ二つに割れた。いくら興奮してたとはいえ、初老酔っ払いの握力で盃を握り割るなどできるはずもない。彼は、呆気にとられたように手の中の割れた盃を凝視していた。
「でしょう…やっぱりヒビがはいっていたんですよ。」
初老の酔っぱらいはようやく視線を泰滋に戻すと宵も覚めたように言った。
「なぜわかった。」
「なぜって…。」
「ろくに見てもいない盃にヒビが入っていると、なぜわかっていたんだ。」
掴み掛からんばかりの問い詰めように、泰滋も種明かしをせざるを得なかった。
「音ですよ。」
「音?」
「さっきから、机に置くたびに鈍いジャリジャリ音がしてたじゃないですか。」
「ジャリジャリ音?」
「ええ、ヒビが入ってなければ、そんな音など出るはずありませんから…。」
「お前にはそのジャリジャリ音とかが聞こえていたのか。」
「ええ、まあ…。」
初老の男、泰滋の答えに酔いも覚めてしまったようだからそう呼び変えるが…、は割れた盃と泰滋をしばらく交互に見くらべていた。そして、いきなり立ち上がると、泰滋の腕を取った。
「おもしろい。お前は非常に面白いやつだ。ちょっと来い。」
嫌がる泰滋を赤提灯の店から無理やり引きずり出した。
「でも…。」
「お前じゃない、お前のため息を何とかしろと言っておるんだ。」
腰を浮かした泰滋の腕を引き取ってもう一度座らせると、初老の酔っぱらいは盃を差し出す。
「とにかく飲め。」
「いや…結構ですから。」
「いいから飲め。」
「いや…。」
「お前、目上のモノが酒を勧めているのに、盃を取らぬなどとは無礼千万だ。」
「いえ、おすすめいただいている酒が嫌ではないんです。その盃が嫌なんです。」
「盃?」
「ええ…。」
「…なぜだ。」
「ヒビが入っているから。」
「なんだと。」
初老の酔っぱらいは、手にした盃を回しながらすみずみまで舐めるように検見した。
「ヒビなどまったくないではないか。愚弄するのもいい加減にせい。」
初老の酔っぱらいは、盃を握ると怒声とともに泰滋の顔の前に差し出す。すると、盃が彼の手の中で真っ二つに割れた。いくら興奮してたとはいえ、初老酔っ払いの握力で盃を握り割るなどできるはずもない。彼は、呆気にとられたように手の中の割れた盃を凝視していた。
「でしょう…やっぱりヒビがはいっていたんですよ。」
初老の酔っぱらいはようやく視線を泰滋に戻すと宵も覚めたように言った。
「なぜわかった。」
「なぜって…。」
「ろくに見てもいない盃にヒビが入っていると、なぜわかっていたんだ。」
掴み掛からんばかりの問い詰めように、泰滋も種明かしをせざるを得なかった。
「音ですよ。」
「音?」
「さっきから、机に置くたびに鈍いジャリジャリ音がしてたじゃないですか。」
「ジャリジャリ音?」
「ええ、ヒビが入ってなければ、そんな音など出るはずありませんから…。」
「お前にはそのジャリジャリ音とかが聞こえていたのか。」
「ええ、まあ…。」
初老の男、泰滋の答えに酔いも覚めてしまったようだからそう呼び変えるが…、は割れた盃と泰滋をしばらく交互に見くらべていた。そして、いきなり立ち上がると、泰滋の腕を取った。
「おもしろい。お前は非常に面白いやつだ。ちょっと来い。」
嫌がる泰滋を赤提灯の店から無理やり引きずり出した。



