御茶ノ水のカフェで別れてから、佑樹とは全く会っていない。普段は、レッスンの終り際に次回のスケジュールを話し合うのだが、あの時の佑樹の剣幕ではそんなことができる状態ではなかった。
だいたいあんな別れ方をするなんて、彼は失礼だ。彼に会って説教をと思うのだが、会うためには、こちらが彼の家に行くか、連絡するかだが、こちらから動くようなことは汀怜奈のプライドが許さなかった。
佑樹は、汀怜奈の携帯番号はもちろん、家の連絡先や住所も知らないから、彼から連絡が来るとは到底思えない。聞かれなかったから、汀怜奈から教えもしなかったのだが、今となっては、そんなことすらも聞かない佑樹の家のユルさが恨めしい。
「あら、汀怜奈さん。お出かけ?」
玄関で靴を履く汀怜奈を目ざとく見つけた母が声をかける。
「ええ、ちょっと疲れたので、気晴らしに渋谷へ買い物でも…。」
「そう…私もご一緒しようかしら。」
「えっ、あぁ…ついでに運動不足だから、階段うさぎ跳びで渋谷ヒカリエ全階制覇でもしようかと思っていますの…それでも行かれます?」
「あなた…呆れたわね…。」
娘の奇言に絶句する母。しばらく娘を見つめたあと、笑顔を取り戻して言った。
「一人で行きたいなら、そうおっしゃいな。」
「すみません。お母さま。」
「うさぎ跳びかなんだか知りませんけど、もう少し女らしいかっこして外出されたらいいのに。」
「行ってまいります。」
母の観察に耐え兼ねて、汀怜奈は言葉が終わらぬうちに玄関の外へ出た。
もちろん汀怜奈は、渋谷に出てもうさぎ跳びをするつもりはない。渋谷駅からぶらぶらと歩きながら、セルリアンタワー東急ホテルに向かっていた。
以前、偶然の出会いで、彼がこのホテルでバイトをしていることを知った。しかしその時出会ったのは村瀬汀怜奈であり、先輩としてではない。もしまたこのホテルで佑樹と会うことができれば、それはあくまでも偶然であり、私がわざわざ会いに来たのだと彼に思われることはないはずだ。プライドの高い汀怜奈が、佑樹に会うために自分が取れる最大限の譲歩行動がこれだった。
だいたいあんな別れ方をするなんて、彼は失礼だ。彼に会って説教をと思うのだが、会うためには、こちらが彼の家に行くか、連絡するかだが、こちらから動くようなことは汀怜奈のプライドが許さなかった。
佑樹は、汀怜奈の携帯番号はもちろん、家の連絡先や住所も知らないから、彼から連絡が来るとは到底思えない。聞かれなかったから、汀怜奈から教えもしなかったのだが、今となっては、そんなことすらも聞かない佑樹の家のユルさが恨めしい。
「あら、汀怜奈さん。お出かけ?」
玄関で靴を履く汀怜奈を目ざとく見つけた母が声をかける。
「ええ、ちょっと疲れたので、気晴らしに渋谷へ買い物でも…。」
「そう…私もご一緒しようかしら。」
「えっ、あぁ…ついでに運動不足だから、階段うさぎ跳びで渋谷ヒカリエ全階制覇でもしようかと思っていますの…それでも行かれます?」
「あなた…呆れたわね…。」
娘の奇言に絶句する母。しばらく娘を見つめたあと、笑顔を取り戻して言った。
「一人で行きたいなら、そうおっしゃいな。」
「すみません。お母さま。」
「うさぎ跳びかなんだか知りませんけど、もう少し女らしいかっこして外出されたらいいのに。」
「行ってまいります。」
母の観察に耐え兼ねて、汀怜奈は言葉が終わらぬうちに玄関の外へ出た。
もちろん汀怜奈は、渋谷に出てもうさぎ跳びをするつもりはない。渋谷駅からぶらぶらと歩きながら、セルリアンタワー東急ホテルに向かっていた。
以前、偶然の出会いで、彼がこのホテルでバイトをしていることを知った。しかしその時出会ったのは村瀬汀怜奈であり、先輩としてではない。もしまたこのホテルで佑樹と会うことができれば、それはあくまでも偶然であり、私がわざわざ会いに来たのだと彼に思われることはないはずだ。プライドの高い汀怜奈が、佑樹に会うために自分が取れる最大限の譲歩行動がこれだった。



