見ると女子大生がふたり、クラシック・ギターと思われるケースを手に汀怜奈を覗き込んでいる。汀怜奈は本能的に鼻と口を手で覆った。やはり、楽器のメッカ御茶ノ水だ。こんなカッコをしていても気づく音楽ファンが居ると思って当然なのに、汀怜奈は油断した自分を呪った。
「村瀬汀怜奈さんって…あのギターの演奏家の村瀬さんのことですか?」
絶句している汀怜奈に代わって佑樹が答える。
「はい。」
女子大生たちは目を輝かして頷く。
「やだな…人違いですよ。」
「でも…髪型は違ってますが、よく似てらっしゃるので…。」
「全然違いますよ。自分は村瀬さんご本人をよく知ってますが…。」
「えっ、お知り合いなんですか?」
「ええ、先日もお会いしました。」
『佑樹さんったら…、ホテルのルームにドリンクを持ってきただけじゃないですか。』
汀怜奈が呆れて彼を見つめる。
「村瀬さんは…。」
佑樹は、はるか順天堂大のタワーを見上げながら遠い目をした。
「…キューティクルの効いた輝く髪をお持ちの本当に優雅で美しい女性です。しかもですよ、繊細な字をお書きになるんです。」
「そうなんですか…なんかすごい。私たち昔から村瀬汀怜奈さんのファンなんです。」
「そうですか…でもね。」
佑樹が少しブルーになって、視線を落とした。
「でも、なんです?」
「本当に残酷なはなしですが…。天は村瀬さんに、輝く美しさとギター演奏の才能をお与えになったのに…。」
ゆっくり間を取る佑樹に、女子大生たちはかたずを飲んで次の言葉を待った。
「天は村瀬さんに声を与えることはしなかった…。」
「へ?」
「失礼ながら、村瀬さんはしゃべることがおできにならないんですよ。」
「嘘つき!本気にして損した。」
女子大生たちは怒ってそう言うと、踵を返して立ち去ってしまった。
「あれ…ホントのことなんだけどな…先輩、なんでそんなに笑うんですか。」
ガハガハ笑う汀怜奈に気分を害した佑樹は、乱暴に弦を棚から引き抜くと、レジへひとりで歩き出した。
「佑樹さん…いい加減、機嫌直してくださいな。奮発してカプチーノをご馳走しているのですから。」
楽器店を出たあと、へその曲がった佑樹のご機嫌とろうと、汀怜奈は駅の近くのエクセシオールカフェに彼を誘っていた。しかし、そう言いながらも汀怜奈の笑いがいっこうに収まらない。
「村瀬汀怜奈さんって…あのギターの演奏家の村瀬さんのことですか?」
絶句している汀怜奈に代わって佑樹が答える。
「はい。」
女子大生たちは目を輝かして頷く。
「やだな…人違いですよ。」
「でも…髪型は違ってますが、よく似てらっしゃるので…。」
「全然違いますよ。自分は村瀬さんご本人をよく知ってますが…。」
「えっ、お知り合いなんですか?」
「ええ、先日もお会いしました。」
『佑樹さんったら…、ホテルのルームにドリンクを持ってきただけじゃないですか。』
汀怜奈が呆れて彼を見つめる。
「村瀬さんは…。」
佑樹は、はるか順天堂大のタワーを見上げながら遠い目をした。
「…キューティクルの効いた輝く髪をお持ちの本当に優雅で美しい女性です。しかもですよ、繊細な字をお書きになるんです。」
「そうなんですか…なんかすごい。私たち昔から村瀬汀怜奈さんのファンなんです。」
「そうですか…でもね。」
佑樹が少しブルーになって、視線を落とした。
「でも、なんです?」
「本当に残酷なはなしですが…。天は村瀬さんに、輝く美しさとギター演奏の才能をお与えになったのに…。」
ゆっくり間を取る佑樹に、女子大生たちはかたずを飲んで次の言葉を待った。
「天は村瀬さんに声を与えることはしなかった…。」
「へ?」
「失礼ながら、村瀬さんはしゃべることがおできにならないんですよ。」
「嘘つき!本気にして損した。」
女子大生たちは怒ってそう言うと、踵を返して立ち去ってしまった。
「あれ…ホントのことなんだけどな…先輩、なんでそんなに笑うんですか。」
ガハガハ笑う汀怜奈に気分を害した佑樹は、乱暴に弦を棚から引き抜くと、レジへひとりで歩き出した。
「佑樹さん…いい加減、機嫌直してくださいな。奮発してカプチーノをご馳走しているのですから。」
楽器店を出たあと、へその曲がった佑樹のご機嫌とろうと、汀怜奈は駅の近くのエクセシオールカフェに彼を誘っていた。しかし、そう言いながらも汀怜奈の笑いがいっこうに収まらない。



