かくして、泰滋とミチエの結婚式が、泰滋の卒業を待たずに執り行われることになった。といっても、ふたりは10月まで待たされることになる。京都人は祝言をあげるなら平安神宮というのが常識で、平安神宮がその月まで空きがなかったのだ。一方両家の親は大変だ。ミチエが爆弾発言をしてから2ヶ月後。親族だけのささやかな祝言とは言え、両家はせめて人並の結婚をとその準備に大忙しであったのだ。
1年にわたる文通でお互いを理解し合ったとは言え、まだ年端もいかない大学生と女子校生のふたりが、初めて会ったその10日後に婚約し、その8ヶ月後には紋付袴と文金高島田を身につけて、平安神宮境内で記念撮影を撮るカメラの前に立っている。なんと人騒がせな若者たちだろう。
「あの…ミチエさん。」
結婚記念写真にカメラマンからポーズの注文を受けながら泰滋が言った。
「はい?」
ミチエが大きな綿帽子(文金高島田)が重いのか、上目遣いで泰滋に答える。
「どうしても、気になってることがあって…。」
「なんでしょう?」
「あの…『ストップ札』の件ですけど…。」
「ああ、これ。」
ミチエは懐から紙片を取り出した。
「そんなもの、こんなところまで持ってきはったんですか?」
「ええ…まあ。」
「もう、破ってもええんと違いますか?」
「ええ…でも…今となっては、この札がかえって泰滋さんと一緒にいられるお守りみたいな気がして…。」
ミチエはまた大切そうに懐へ仕舞ってしまった。
「あっ、ちょっと、ミチエさん。」
結婚後にそんな札を出されたらたまらない。慌てて紙片を取り上げようとする泰滋。
「ああ、新郎はん、動いたらあきませんがな。」
カメラマンに叱られて、泰滋は仕方なくカメラに向き直った。
こうしてドタバタのうちにふたりの結婚式が執り行われた。ミチエは後に姉妹たちに語っていたのだが、結婚式のその夜に、お義父さんのために、いつもの豆腐屋に下駄履きで豆腐を買いに行ったそうだ。もちろん、豆腐屋のおばちゃんは結婚のお祝いにと、豆腐を一丁足すことを忘れなかった。
1年にわたる文通でお互いを理解し合ったとは言え、まだ年端もいかない大学生と女子校生のふたりが、初めて会ったその10日後に婚約し、その8ヶ月後には紋付袴と文金高島田を身につけて、平安神宮境内で記念撮影を撮るカメラの前に立っている。なんと人騒がせな若者たちだろう。
「あの…ミチエさん。」
結婚記念写真にカメラマンからポーズの注文を受けながら泰滋が言った。
「はい?」
ミチエが大きな綿帽子(文金高島田)が重いのか、上目遣いで泰滋に答える。
「どうしても、気になってることがあって…。」
「なんでしょう?」
「あの…『ストップ札』の件ですけど…。」
「ああ、これ。」
ミチエは懐から紙片を取り出した。
「そんなもの、こんなところまで持ってきはったんですか?」
「ええ…まあ。」
「もう、破ってもええんと違いますか?」
「ええ…でも…今となっては、この札がかえって泰滋さんと一緒にいられるお守りみたいな気がして…。」
ミチエはまた大切そうに懐へ仕舞ってしまった。
「あっ、ちょっと、ミチエさん。」
結婚後にそんな札を出されたらたまらない。慌てて紙片を取り上げようとする泰滋。
「ああ、新郎はん、動いたらあきませんがな。」
カメラマンに叱られて、泰滋は仕方なくカメラに向き直った。
こうしてドタバタのうちにふたりの結婚式が執り行われた。ミチエは後に姉妹たちに語っていたのだが、結婚式のその夜に、お義父さんのために、いつもの豆腐屋に下駄履きで豆腐を買いに行ったそうだ。もちろん、豆腐屋のおばちゃんは結婚のお祝いにと、豆腐を一丁足すことを忘れなかった。



