「とにかく…ミチエさんが来てくれたし、今夜はご馳走にしまひょ。おとうさん。湯豆腐なんてどうですやろ。この前頂いたお酒もまだ残ってるしな…。」
時子がすかさず、雲行きの怪しくなった父親と息子の間に入る。湯豆腐と日本酒と聞いた父親がまんざらでもなさそうに頷いた。
「ほなら、泰滋ちゃん。お豆腐こうてきて。」
「ああ、わかった。」
「あの…。」
「ミチエさん、なんや?」
「私も泰滋さんとご一緒してもいいでしょうか。」
「そんな、しんどいやろから、無理せいへんとも…。」
「では、ミチエさんも行きましょう。着替えてくるので、待っててください。」
母親の気遣いを遮って、泰滋はドタドタと2階に上がっていった。
泰滋は、ポケットに手を突っ込みながら、ガラコロと大きな下駄の音を立てて歩く。そんな彼の少し後ろを、ミチエは豆腐を入れるアルマイトの鍋を持って歩いた。
「こんにぃちわぁ。春の5月やというのに今日はさぶおすなぁ。」
すれ違う人々が、泰滋に会釈する。泰滋も会釈で挨拶を返すのだが、すれ違いざまに、ジロジロとミチエを眺め回していった。ミチエはなんか恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
「おばちゃん。豆腐一丁くれへんか。」
店先で、冷たい水に手を真っ赤にして、真っ白な豆腐をすくうおばちゃんが、ミチエをチラチラ見ながら言った。
「ぼんぼん、その方どちらさんや。」
「ああ…一応僕の婚約者やけど…。」
ミチエは耳たぶまで赤くして、豆腐屋のおばちゃんにお辞儀をした。
「えっ、ぼんぼん、若いのにもう結婚しはりますの?」
「そや、あかんか?」
「そんなこと言うてへんけど…ぼんぼんも若いが、お嫁はんもわかいなぁ。大丈夫かいな…。」
「いらん心配せんといて。」
「とにかく、お嫁はんに苦労させんように、おきばりやっしゃ。」
「わかってるがな…。」
「婚約のお祝いにもう一丁たしとくさかいにな。」
「お祝いが豆腐一丁かいな…。」
泰滋は笑いながら、アルマイトに入った豆腐と引換えに小銭を渡す。
「安心しいや…結婚したらもう一丁たすさかいに。」
おばちゃんの言葉にさらに爆笑する泰滋。
「おかあはんに、せわになったとよう言うとくわ。」
「おおきに。」
豆腐屋のおばちゃんに送られながら、泰滋はまたガラコロ音を立てて歩き始めた。
時子がすかさず、雲行きの怪しくなった父親と息子の間に入る。湯豆腐と日本酒と聞いた父親がまんざらでもなさそうに頷いた。
「ほなら、泰滋ちゃん。お豆腐こうてきて。」
「ああ、わかった。」
「あの…。」
「ミチエさん、なんや?」
「私も泰滋さんとご一緒してもいいでしょうか。」
「そんな、しんどいやろから、無理せいへんとも…。」
「では、ミチエさんも行きましょう。着替えてくるので、待っててください。」
母親の気遣いを遮って、泰滋はドタドタと2階に上がっていった。
泰滋は、ポケットに手を突っ込みながら、ガラコロと大きな下駄の音を立てて歩く。そんな彼の少し後ろを、ミチエは豆腐を入れるアルマイトの鍋を持って歩いた。
「こんにぃちわぁ。春の5月やというのに今日はさぶおすなぁ。」
すれ違う人々が、泰滋に会釈する。泰滋も会釈で挨拶を返すのだが、すれ違いざまに、ジロジロとミチエを眺め回していった。ミチエはなんか恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
「おばちゃん。豆腐一丁くれへんか。」
店先で、冷たい水に手を真っ赤にして、真っ白な豆腐をすくうおばちゃんが、ミチエをチラチラ見ながら言った。
「ぼんぼん、その方どちらさんや。」
「ああ…一応僕の婚約者やけど…。」
ミチエは耳たぶまで赤くして、豆腐屋のおばちゃんにお辞儀をした。
「えっ、ぼんぼん、若いのにもう結婚しはりますの?」
「そや、あかんか?」
「そんなこと言うてへんけど…ぼんぼんも若いが、お嫁はんもわかいなぁ。大丈夫かいな…。」
「いらん心配せんといて。」
「とにかく、お嫁はんに苦労させんように、おきばりやっしゃ。」
「わかってるがな…。」
「婚約のお祝いにもう一丁たしとくさかいにな。」
「お祝いが豆腐一丁かいな…。」
泰滋は笑いながら、アルマイトに入った豆腐と引換えに小銭を渡す。
「安心しいや…結婚したらもう一丁たすさかいに。」
おばちゃんの言葉にさらに爆笑する泰滋。
「おかあはんに、せわになったとよう言うとくわ。」
「おおきに。」
豆腐屋のおばちゃんに送られながら、泰滋はまたガラコロ音を立てて歩き始めた。



