その優しい物腰と笑顔。関東から嫁ぐ者にとっては、これが噂の京都風挨拶なのかと警戒するところであるが、幼いミチエにそんなすれた賢さがあるわけがない。しかも、長い間電車の硬い椅子に揺られてパンパンに腫れた足が痛い。ミチエは姑の優しい言葉を100パーセント鵜呑みにして、靴を脱いで座敷に上がると、遠慮がちにも足を投げ出した。
それがかえって良かった。姑の時子は生粋の京女ではなかったから、塩山から京都へ嫁ぎ散々自分が苦労したことを、こんな幼い息子の嫁に強いることなど考えもしなかった。実際、足をさするミチエの姿を見ながら時子は、可愛い娘が一人できたと、本当に心から喜んでいた。
「ところで…泰滋さんの容態は?」
「あいつか…あいつは2階で寝ておるやろ。」
「わたし、ちょっと様子見に2階へ…。」
「そんなに、急がへんでええ。ミチエさんもしんどいやろから、ゆっくり休んでからで十分や。」
「でも…。」
「いえね…。」
玄米茶を小ぼんに乗せて運びながら姑が言った。
「確かに熱が出て、ふらつくほど具合が悪くて、病院へ行ってもわけわからへんし、どないしょと思っていたんやけど…。ミチエさんが来る言いましたらな、急に元気になりはってね…そやけど、呼んだ手前、カッコつかへんし…。今はとりあえず布団をかぶってるだけやし。」
姑が口元を小さな手の甲で隠しながら、ククッと笑った。
「ちょっと、待ってえな、おかあはん。ミチエさん来てるのに、なんで呼んでくれへんの。」
見ると毛布に包まって、不満顔の泰滋が立っていた。3ヶ月ぶりに見るその泰滋の顔は、確かにすこし尖っていたようであった。
「なんでや言うても、ミチエさんも長旅でシンドイやろから…。」
「起きていいんですか、泰滋さん。」
心配そうに尋ねるミチエに答えようと、泰滋はあらためて彼女を見た。3ヶ月ぶりに見るミチエ。その澄んだ目とはちきれんばかりの健康美が眩しくて、思わず目を瞬いた。古ぼけた長屋の茶の間が、ミチエがいることでまったく別の空間になっている。
「ええ…なんとか…。」
「なにが、なんとかや…ミチエさんに甘えるのもええ加減にしいや。」
父親の叱責に泰滋が不満顔で応える。
「仕方ないやないか、ホンマに具合悪くなってしもたんやから…。」
それがかえって良かった。姑の時子は生粋の京女ではなかったから、塩山から京都へ嫁ぎ散々自分が苦労したことを、こんな幼い息子の嫁に強いることなど考えもしなかった。実際、足をさするミチエの姿を見ながら時子は、可愛い娘が一人できたと、本当に心から喜んでいた。
「ところで…泰滋さんの容態は?」
「あいつか…あいつは2階で寝ておるやろ。」
「わたし、ちょっと様子見に2階へ…。」
「そんなに、急がへんでええ。ミチエさんもしんどいやろから、ゆっくり休んでからで十分や。」
「でも…。」
「いえね…。」
玄米茶を小ぼんに乗せて運びながら姑が言った。
「確かに熱が出て、ふらつくほど具合が悪くて、病院へ行ってもわけわからへんし、どないしょと思っていたんやけど…。ミチエさんが来る言いましたらな、急に元気になりはってね…そやけど、呼んだ手前、カッコつかへんし…。今はとりあえず布団をかぶってるだけやし。」
姑が口元を小さな手の甲で隠しながら、ククッと笑った。
「ちょっと、待ってえな、おかあはん。ミチエさん来てるのに、なんで呼んでくれへんの。」
見ると毛布に包まって、不満顔の泰滋が立っていた。3ヶ月ぶりに見るその泰滋の顔は、確かにすこし尖っていたようであった。
「なんでや言うても、ミチエさんも長旅でシンドイやろから…。」
「起きていいんですか、泰滋さん。」
心配そうに尋ねるミチエに答えようと、泰滋はあらためて彼女を見た。3ヶ月ぶりに見るミチエ。その澄んだ目とはちきれんばかりの健康美が眩しくて、思わず目を瞬いた。古ぼけた長屋の茶の間が、ミチエがいることでまったく別の空間になっている。
「ええ…なんとか…。」
「なにが、なんとかや…ミチエさんに甘えるのもええ加減にしいや。」
父親の叱責に泰滋が不満顔で応える。
「仕方ないやないか、ホンマに具合悪くなってしもたんやから…。」



