「これでも本人は十分考えたと云うておりますよってに…。」
中々切り出さない父の脇腹を、泰滋は肘で小突いて先を促した。
「ぜひ、お宅のミチエさんをうちの愚息のお嫁さんにいただけませんやろか。」
宇津木家の人々は、泰蔵の申し出にしばし言葉を失った。ただでさえミチエの母は泰滋の父親が突然乗り込んできてパニックになっているのに、こんな申し出を受けては、返す言葉も支離滅裂にならざるを得ない。
「実は、ミチエはバスケばかりやっておりまして…。」
困惑している親同士の話だから、なんか話が噛み合わない。
「結婚は…もちろんお許しをいただければの話ですが、こいつが大学を卒業してからということで…。」
「料理といっても、お米を研ぐくらいのことしか…。」
「それまでは、婚約ということで…。」
「そういえば、泰滋さんに美味しい京のお漬物いただきまして、お礼もまだちゃんと言わず失礼おば…。」
「おかあさん。」
たまらず長兄が口を挟む。
「そんなことより、ミチエの気持ちを聞くことが先だろう。どうなんだミチエ。石津さんからいただいたお話しをお受けできるのか?」
ミチエは、後年この時のことを思い出すたびに、笑って泰滋を責めた。初めて会ってから10日目の電撃的な求婚で、彼女に考える暇もなく返事を迫ったのは、彼の策略だったのだと言うのだ。実際、あれは了解の意味で首を縦に降ったのではなく、あまりにも急な話しでパニックになり、一瞬気を失いそうになって、思わず頭を垂れたのだと言い張る。気持ちもわからないこともないが…しかし、そんな花嫁の状況はともかく、めでたくも宇津木家からミチエが、石津家へ嫁ぐことが決まったのだった。
泰滋と彼の父が京都へ戻った後、ミチエの母は、花嫁修業をどうしたらいいのかと思い悩んでいた。バスケばっかりやっていたミチエ。その娘を嫁がせるのはいいが、このままだと嫁いだ先で苦労するに違いない。
とりあえずミチエは、高校卒業後は、東京家政大学短期大学部家庭科被服専攻へ進学することが決まっていたので、泰滋が同志社大学を卒業するまでの1年間、そこに通うことになる。
母はこの1年でなんとか、ミチエを家事が無難にこなせる嫁に鍛え上げなければならないと考えていた。ミチエの卒業まで待って結婚させようという考えを誰もがもたないところが、当時の女性の位置をよく表している。
中々切り出さない父の脇腹を、泰滋は肘で小突いて先を促した。
「ぜひ、お宅のミチエさんをうちの愚息のお嫁さんにいただけませんやろか。」
宇津木家の人々は、泰蔵の申し出にしばし言葉を失った。ただでさえミチエの母は泰滋の父親が突然乗り込んできてパニックになっているのに、こんな申し出を受けては、返す言葉も支離滅裂にならざるを得ない。
「実は、ミチエはバスケばかりやっておりまして…。」
困惑している親同士の話だから、なんか話が噛み合わない。
「結婚は…もちろんお許しをいただければの話ですが、こいつが大学を卒業してからということで…。」
「料理といっても、お米を研ぐくらいのことしか…。」
「それまでは、婚約ということで…。」
「そういえば、泰滋さんに美味しい京のお漬物いただきまして、お礼もまだちゃんと言わず失礼おば…。」
「おかあさん。」
たまらず長兄が口を挟む。
「そんなことより、ミチエの気持ちを聞くことが先だろう。どうなんだミチエ。石津さんからいただいたお話しをお受けできるのか?」
ミチエは、後年この時のことを思い出すたびに、笑って泰滋を責めた。初めて会ってから10日目の電撃的な求婚で、彼女に考える暇もなく返事を迫ったのは、彼の策略だったのだと言うのだ。実際、あれは了解の意味で首を縦に降ったのではなく、あまりにも急な話しでパニックになり、一瞬気を失いそうになって、思わず頭を垂れたのだと言い張る。気持ちもわからないこともないが…しかし、そんな花嫁の状況はともかく、めでたくも宇津木家からミチエが、石津家へ嫁ぐことが決まったのだった。
泰滋と彼の父が京都へ戻った後、ミチエの母は、花嫁修業をどうしたらいいのかと思い悩んでいた。バスケばっかりやっていたミチエ。その娘を嫁がせるのはいいが、このままだと嫁いだ先で苦労するに違いない。
とりあえずミチエは、高校卒業後は、東京家政大学短期大学部家庭科被服専攻へ進学することが決まっていたので、泰滋が同志社大学を卒業するまでの1年間、そこに通うことになる。
母はこの1年でなんとか、ミチエを家事が無難にこなせる嫁に鍛え上げなければならないと考えていた。ミチエの卒業まで待って結婚させようという考えを誰もがもたないところが、当時の女性の位置をよく表している。



