ウ・テ・ル・ス

 真奈美は踵を返すと、裏口へ向かった。そしてそこにも男達を発見すると、庭の真ん中で途方に暮れた。真奈美も秀麗も自分達を監視している男のことは気付いていたが、今までは夜間にはその姿が見えなかった。代議士夫人は、この時期になって監視の人数を増やし、そして24時間体制を引いたのだ。
 どうしようかと庭を右往左往しているうちに、次第にパニックに陥っていく。
「痛ッ!」
 ついに真奈美は、目利きが出来ぬ暗い庭で、石に躓き足をくじいてしまった。痛さと重い身体に耐えられず、芝生に座りこむ。すると突然外のドアが開いて、男が入って来た。外で監視している男達が、右往左往する真奈美の鈴の音に気付き、家の中の様子を確かめに入ってきたようだ。這いずりながら慌てて庭の木陰に身を隠したが、鈴の音は消すことが出来なかった。入ってきた男は、その鈴の音に気付くと、吸い寄せられるように、暗い庭を手探りで真奈美に近づいてきた。
「おい、真奈美。そこに居るんだろ。」
 聞こえてきたのは、ストーカーから真奈美を救ったあの声だった。やはり自分を救えるのは、この男しかいないのだ。真奈美は、片足ながらも脱兎のごとく木陰から飛び出ると、半ベソをかきながら、声の主に抱きついた。
 抱きつかれた秋良は、相手が真奈美だとはわかったものの、その体つきや匂いや柔らかさが、彼が知っている真奈美ではないことに戸惑いを覚えた。不快なのではない。強いて言えば、なにか自分に及ばないものに変心しているかのごとくに感じたのだ。そのうち、真奈美が自分に強くしがみつくものだから、突き出たお腹が自分の身体にあたり、赤ちゃんが潰れやしないかと心配になってきた。
「どうした、足を痛めたのか?」
 秋良は真奈美を軽々と抱き上げた。赤ちゃんも居て重さも2倍になっているはずなのに、この男はなんて逞しいのだろう。そんな真奈美の心の内を知ってか知らずか、秋良はそのまま彼女を寝室に運んで行った。真奈美をベッドの上に置いたが、真奈美は秋良の首に巻いた腕を解こうとしない。仕方なく真奈美の横に添い寝する秋良。何カ月かぶりに感じる彼女の体温に癒されながら、秋良もやがて眠りの園に入っていった。翌朝、真奈美が破水した。