ウ・テ・ル・ス

「お腹の赤ちゃんに聞かせているんです。」
「ああ、胎教ってやつね。良い音楽は胎児にもいい影響を及ぼすって言うしね。」
 秀麗は、真奈美が聞かせているものが音楽だと勝手に解釈していた。
「それに、あなたのアンクレットの鈴の音も綺麗だから、赤ちゃんも喜んでいるんじゃない?」
「そうですね…お腹の赤ちゃんもこの鈴の音がすると、一緒に踊りだすんです。」
「へぇー、わかるんだ…。」
 真奈美は2度ほど足踏みをして鈴を鳴らした。
「本当に素敵な音ね。どこで手に入れたの?」
「実は…プレゼントなんです。」
「そう…。選んだ人はとてもセンスがいいわ。」
「そうですか…でも彼は、ファッションと言うよりは、私が何処に居るか解るからって…。なんか猫に首輪を付けるみたいなことを言っていましたけど。」
「えっ、男の人からのプレゼントなの?」
「ええ、まあ…。」
「その人、相当あなたを好きだったのね。」
「そうでしょうか?そんな素振りはまったく見せませんが…。」
「自分の気持ちに気付くのにとっても時間がかかる動物なのよ、男はね…。」
 ベランダのふたりの女性は、それぞれの頭の中に、偶然にも同じ男のことを想い描いた。

 妊娠8カ月(28〜31週)お腹の赤ちゃんの大きさは約40センチ。秋良のスマートフォンに真奈美からのメッセージが届いた。開いてみると、モノクロで、扇形に開いた線で構成された電子画のようなものが添付されていた。
『今日、お腹の中の赤ちゃんが女の子だとわかりました。真奈美』
 エコー画像か。どこをどう見ても赤ちゃんの姿なんて見えてこない。こんな画像でどうして性別なんかわかるのか、秋良にはまったく判読できなかった。

 妊娠9カ月(32〜35週)お腹の赤ちゃんの大きさは約45センチ。益々大きくなるおなかに、腰痛や足の付け根が痛む。むくみが見える顔にもシミ、ソバカスが濃くなってきたようだ。そんな体調の変化に加え、あと少しで赤ちゃんに会えるという期待と、分娩やその後のことに対する不安感が入り混じって、真奈美は精神的に不安定になった。実際、秋良のことを考える余裕もなくなってきている。代議士夫人が秘書達を引き連れて一軒家に乗り込んできたのは、そんな折だった。