最重要事項である妊娠チェックが終わってからということで、今回の定例会議は、その日の夜におこなわれた。
『そう、今日、妊娠が確認されたの。とりあえずひと安心ね。だったら、事業の整理はそんなに急がなくてもいいんじゃない。』
 会議テーブルのモニターから秀麗が笑顔で言った。
「いや、今の段階で成功しても、この後にも出産が無事終わる保証はない。事業の整理のスピードは緩めないでいこう。」
 秋良が間髪を入れず発言した。事情がわかっている守本ドクターと三室は黙って肯いて賛同を示した。
『わかった…。それでは、事業整理の準備について話し合いましょう…。』
 その後も、秀麗の進行で会議はすすめられ、彼女が会議を締めたのは、深夜に近くなっていた。
「三室、ちょっと来てくれるか。」
 席を立った三室を秋良が呼びとめる。秀麗のウェブが切られ、守本ドクターが立ち去ったことを確認すると、秋良は言った。
「真奈美はどうしてる?」
「妊娠チェックが終わったら、妹さんとホテルを出ましたよ。」
「そうか…。」
 何か言いたそうな秋良に、三室は問い返す。
「それでよかったんですよね?」
「ああ。」
「これから彼女との連絡は自分がやりますから。」
「ああ、そうしてくれ。」
 三室が部屋を出ていった後も、秋良はしばらく会議テーブルに頬づえをついて考えていた。誰に非難されようと、自分達が生き残るための最善の策と考えてとった自分の行動である。思惑通りに代議士夫人に妊娠を示し、自分達の延命に成功した。真奈美との雇用契約に違反したとしても、本音のところは、彼女はウテルスなのだからは利用されるのは仕方が無いと思っている。
 また今の秋良は、真奈美のお腹にいる子どもと自分との関係性がまったく理解できないでいた。その子が自分と血のつながった子どもであるという当然のことが、まったく意識されていない。だからこそ、将来その子のために自分が死ぬような目に遭うことなど想像もできない。
 むしろ秋良の今の心のわだかまりは、子どもと言うよりは真奈美にあった。彼女と離れて2週間、わずかに出来たこころの隙間に空虚感が忍び込んでくる。それは彼女への罪悪感などではなく、いたって自分勝手な想いなのだが、今のところその隙間をどうやって埋めたらいいのかが、彼のプライベートな部分での大きな課題であった。