ウ・テ・ル・ス

 シャワールームへ入ると、床が濡れていた。秋良が使って、そう時間が経っていないようだった。秋良がシャワーにあたっている情景が目に浮かぶ。それが彼女に昨夜の事をまた思い出させた。昨夜は真奈美が初めてのことなのを知ってか知らずが、秋良が急がずゆっくりと彼女を導いてくれたことが嬉しかった。さすがに最初は異物感があったものの、やがて秋良の逞しい腕で抱きしめられているという意識が彼との一体感を生み出し、彼とともに至福の空を舞ったのだ。熱い水滴に身体を打たれながら、真奈美は自分の臍のあたりを見つめた。手のひらを臍の下あたりにそっとあててみる。生理学的にはあり得ないことだが、真奈美にだけわかる確信のようなものが、手のひらから伝わって来た。嬉しいのか、悲しいのか、真奈美にはよくわからなかった。

 定例のマネージャー会議が始まる。秋良は会議テーブルに両肘をついてふたりのマネージャーを待った。やがて守本ドクターと三室がエレベーターから現れ、それぞれの席に着いた。今日の議題は昨日の失敗への対応についてであることは、ふたりは良く理解している。それだけに座った時からふたりの顔には暗い影が射していた。時間になったので三室がクアラルンプールに居る秀麗とウエブを繋ごうとすると、秋良がそれを制した。
「秀麗とつなぐ前にふたりに言っておきたい。」
 守本ドクターと三室が秋良に注目した。
「森真奈美は2週間後に妊娠チェックをクリアする確率が高い。」
「なぜです?」
 守本ドクターが目を大きく開いて秋良に詰め寄る。
「理由はどうでもいい。」
「まさか社長…。」
 三室が非難めいた目で秋良を見つめる。秋良は構わず言葉を続けた。
「2週間後にクリアできなかったらアウト。クリアしたら10カ月の猶予ができる。猶予ができたら、俺はこのビジネスを整理しようと考えている。あの代議士夫人の性格を考えると、受精卵のからくりを知ってしまった以上、最終的にこの仕事の結果がどうであれ、俺たちを放っておいてくれるとは思えない。あの代議士夫人が手を下す前に綺麗に姿を消さなければならない。」
「ちょっと待ってください。」
 三室が秋良の話しを遮った。
「でも、ウテルスが妊娠していたら当然子供が生まれるわけで…。」