彼女はなんとなく身を清めなければいけないように思えて、バスタブに浸かって、入念に身体を洗った。髪を整え、真っ白な肌着を付けて、化粧の無い顔に薄い口紅を引く。足にはめた鈴のアンクレットを外しながら、こんなことを言ったら故人に失礼だが、切腹に向う武士の心境ってこんな感じかしらと思ったりもした。
「さあ、行こうか。」
迎えに来た三室の言葉に背中を押され、真奈美は車に乗った。車窓についた雨粒ひとつひとつに街の景色が映る。車が停止と発進を繰り返すたびに、雨粒の街が一斉に後方に流れていく。街に雨が降っているのか、雨の中に街があるのか、そのうち真奈美は解らなくなってきた。
車の後方シートで真奈美は頭を振った。雨が降っているから、こんな気分になるんだ。自分で受け入れたことだから、絶対後悔はしない。もっと軽く考えよう。真奈美は初めて秋良に会った時、彼が言っていたことを思い出した。『貸し出す前も後も、健全な身体のままだ。』そう、これはただの仕事だ。一時的に自分の身体を貸すだけなんだ。しかも、それだけのことで家族が救われる。母が高度先進医療をうけられて、死なずに済むのだ。
そう自分に言い聞かせる一方で、真奈美の胸に、大磯先生に言った言葉が響く。『わたしは愛している男の人の子供しか産みませんから。』いくら言い聞かせても、徐々に潮が満ちていくように、倫理の波が真奈美の心に迫って来るのを止められない。
「顔色が悪いぞ。車に酔ったか?窓を開けるか?」
三室が心配そうに声をかけた。
「いいえ…大丈夫です。」
真奈美はルームミラーに映る心配顔の三室に笑顔で答えた。
「あの…聞いてもいいですが?卵のご両親は、この前特別室でお会いした方ですよね?」
「悪いな…顧客情報は答えられないんだ。」
「そうですか…。でも、こころから自分達の赤ちゃんが欲しいと思ってらっしゃるんでしょ?」
真奈美は倫理の波に溺れないように、是が非でも、善良な悩める市民へ貢献している実感が欲しかった。
「ああ、もちろんだよ。でも…赤ちゃんが必要な理由は様々だけどね。」
三室の答えが直球でなかったことが、わずかに真奈美の心に引っかかる。
「もし、私でうまくいかなかったらどうするんですか?」
「いつもなら、別なウテルスでもう一度トライするんだが…今回はそうはいかない。」
「どういうことですか?」
「さあ、行こうか。」
迎えに来た三室の言葉に背中を押され、真奈美は車に乗った。車窓についた雨粒ひとつひとつに街の景色が映る。車が停止と発進を繰り返すたびに、雨粒の街が一斉に後方に流れていく。街に雨が降っているのか、雨の中に街があるのか、そのうち真奈美は解らなくなってきた。
車の後方シートで真奈美は頭を振った。雨が降っているから、こんな気分になるんだ。自分で受け入れたことだから、絶対後悔はしない。もっと軽く考えよう。真奈美は初めて秋良に会った時、彼が言っていたことを思い出した。『貸し出す前も後も、健全な身体のままだ。』そう、これはただの仕事だ。一時的に自分の身体を貸すだけなんだ。しかも、それだけのことで家族が救われる。母が高度先進医療をうけられて、死なずに済むのだ。
そう自分に言い聞かせる一方で、真奈美の胸に、大磯先生に言った言葉が響く。『わたしは愛している男の人の子供しか産みませんから。』いくら言い聞かせても、徐々に潮が満ちていくように、倫理の波が真奈美の心に迫って来るのを止められない。
「顔色が悪いぞ。車に酔ったか?窓を開けるか?」
三室が心配そうに声をかけた。
「いいえ…大丈夫です。」
真奈美はルームミラーに映る心配顔の三室に笑顔で答えた。
「あの…聞いてもいいですが?卵のご両親は、この前特別室でお会いした方ですよね?」
「悪いな…顧客情報は答えられないんだ。」
「そうですか…。でも、こころから自分達の赤ちゃんが欲しいと思ってらっしゃるんでしょ?」
真奈美は倫理の波に溺れないように、是が非でも、善良な悩める市民へ貢献している実感が欲しかった。
「ああ、もちろんだよ。でも…赤ちゃんが必要な理由は様々だけどね。」
三室の答えが直球でなかったことが、わずかに真奈美の心に引っかかる。
「もし、私でうまくいかなかったらどうするんですか?」
「いつもなら、別なウテルスでもう一度トライするんだが…今回はそうはいかない。」
「どういうことですか?」



