実のところ真奈美は、これから自分に起きることを受け入れようと必死になっていた。契約を交わしてお金を受け取ってしまった以上逃げるわけにいかない。やっと人並みな生活を送れるようになった母や妹を見捨てるわけにはいかなかったのだ。しかし、男もしらない真奈美が身ごもり出産するということには、母が与えてくれた身体と神が与えてくれた心が、理屈抜きの拒否反応を示す。自分からこの反応を消すためにはどうしたらいいだろうか。一晩かけて考えた結果得られた結論は、出産を終えるまでおとぎ話を作って自分自身を騙すことだった。
実は私は結婚した。献身的な若妻になって愛する旦那様に尽くす。やがて旦那様の赤ちゃんを身ごもり、幸せの中で出産する。このおとぎ話を自分に信じ込ませて、これから起きる事実を受け入れよう。
真奈美はかって借金の返済に悩み疲れて公園のベンチで寝てしまった日を思い出す。そうだ、ちょうどいい。あの時見た夢を、現実なのだと自分に錯覚させよう。こうして、彼女のおとぎ話しの中の夫に、秋良がキャスティングされた。秋良の意思とはまったく関係ない所で、彼は真奈美と言う妻をめとったのだ。今朝の真奈美の秋良に対する態度は、これで納得頂けたと思う。
その日から、真奈美は秋良の献身的な若妻として、家事をこなし秋良に食事を作り続けた。一方、そんな真奈美の心境をゆめゆめ知らぬ秋良は、真奈美の献身を頑なに拒否し続けた。彼女が作った料理は、箸ひとつ付けない。彼女が洗濯しアイロンをかけたワイシャツを無造作にゴミ箱に捨て、新しいシャツを買ってきた。秋良の遅い帰宅に、夜食を作って待つ真奈美にも、一言もしゃべらずに書斎へ直行する。
しかしそれでも真奈美は平気だった。自分を好きになって欲しくて、こんなことをしているのではない。自分の拒否反応をごまかすために、必要なことだったから、リアルな秋良にどんなに拒まれても、笑顔で料理を作り、笑顔で秋良の服をたたみ、笑顔で秋良の背中にお休みなさいを言い続けた。
受精卵を受け入れる迄あと1週間に迫っていたある日、秋良のスマートフォンが鳴った。冷静な秋良にしては珍しく、スマートフォンを家に忘れていったのだ。少し悩んだが、忘れた本人からの連絡かもしれないので、スマートフォンを取った。
「もしもし?」
『あら…電話番号間違えたかしら…。』
女性の落ち着いた声が聞こえてきた。
実は私は結婚した。献身的な若妻になって愛する旦那様に尽くす。やがて旦那様の赤ちゃんを身ごもり、幸せの中で出産する。このおとぎ話を自分に信じ込ませて、これから起きる事実を受け入れよう。
真奈美はかって借金の返済に悩み疲れて公園のベンチで寝てしまった日を思い出す。そうだ、ちょうどいい。あの時見た夢を、現実なのだと自分に錯覚させよう。こうして、彼女のおとぎ話しの中の夫に、秋良がキャスティングされた。秋良の意思とはまったく関係ない所で、彼は真奈美と言う妻をめとったのだ。今朝の真奈美の秋良に対する態度は、これで納得頂けたと思う。
その日から、真奈美は秋良の献身的な若妻として、家事をこなし秋良に食事を作り続けた。一方、そんな真奈美の心境をゆめゆめ知らぬ秋良は、真奈美の献身を頑なに拒否し続けた。彼女が作った料理は、箸ひとつ付けない。彼女が洗濯しアイロンをかけたワイシャツを無造作にゴミ箱に捨て、新しいシャツを買ってきた。秋良の遅い帰宅に、夜食を作って待つ真奈美にも、一言もしゃべらずに書斎へ直行する。
しかしそれでも真奈美は平気だった。自分を好きになって欲しくて、こんなことをしているのではない。自分の拒否反応をごまかすために、必要なことだったから、リアルな秋良にどんなに拒まれても、笑顔で料理を作り、笑顔で秋良の服をたたみ、笑顔で秋良の背中にお休みなさいを言い続けた。
受精卵を受け入れる迄あと1週間に迫っていたある日、秋良のスマートフォンが鳴った。冷静な秋良にしては珍しく、スマートフォンを家に忘れていったのだ。少し悩んだが、忘れた本人からの連絡かもしれないので、スマートフォンを取った。
「もしもし?」
『あら…電話番号間違えたかしら…。』
女性の落ち着いた声が聞こえてきた。



