ウ・テ・ル・ス

「だめですよ。ゆうべも言ったように自分は同棲中ですから…。ドクターも家庭があるし、秀麗さんはほとんど出張で家にいないし…。それに自分達の仕事を知らない第3者に彼女を預けるわけにもいかないですよ。」
 三室はしばらく思案するように腕を組んで空を仰いだ。
「…ここはやっぱり、社長と暮らしてもらわないとだめですね。」
「しかし…」
「たった2週間じゃないですか。」
「そう言っても…。」
「冷静でいられる自信がないですか?」
「そんなことはない。しかし、ゆうべ彼女が服を脱ぎ始めて…。」
「えっ?」
「いや…。お前も知っている通り、俺は、ガキの頃から今まで、ずっとひとりだった。だから、誰かと暮らすなんていう免疫を持ち合わせていないんだ。自分のものを勝手に触られたり、音もなく部屋をウロウロされるなんて、考えただけでゾッとする。きっとストレスで病気になるに決まっている。」
「いやー、こんなにうろたえている社長を見るなんて初めてだぁ。今日はツイてる。」
「嫌みを言うな。」
「彼女は今となってはただのウテルスじゃないんですよ。会社の存続が懸かっているのは社長もよくご存じのはずです。わがままは言わずに滅私奉公。腹を決めて、彼女と期間限定の新婚生活してください。」
 秋良は軽く舌打ちすると、ミーティングの終わりを告げた。
「いいか、このことは他のマネージャーに言うんじゃないぞ。」
 秋良達は席を立った。チェックをすませ外に出ると三室が囁く。
「ところで、告示を受けて彼女、逃げたりはしませんよね。」
「大丈夫だ。彼女は自分を捨てても、家族を見捨てるようなことは出来ない。」
 三室は秋良の言葉に、わずかながら彼女に憐れを感じた。
「そうですか…彼女のために甘いものでも買って、落ち着かせてあげてくださいよ。」
 三室が先程までいたカフェのショーケースを指差す。中には、綺麗なスウィーツが入っていた。
「なんで俺がそんなこと…。」
 再度三室に促され、仕方なくカフェに戻る秋良。そこのレジで少女が慌てながら財布の中身を確かめているのが目に入った。秋良はカフェのスタッフにケーキを注文する。
「あの、学生証を置いていきますから、お金は明日持ってきてもいいでしょうか?」