ウ・テ・ル・ス

「もしもし、ミナミ。遅くなってごめん。もう帰るから…。」
「お姉ちゃん…。」

「それでは、今日のところはお姉さんにお返ししますが、以後家族の方も充分ご指導いただけますよう、よろしくお願いします。」
「ご迷惑をおかけし、申し訳ありません。」
 真奈美は、少年警察補導員に頭を下げた。横のミナミがそっぽを向いているのに気づくと、彼女の髪を掴んで、無理やり頭を下げさせた。
 警察官の敬礼に送られて、六本木警察署の門を出た。警察官の視線から外れたのを確認すると、真奈美はさっそく妹の頭を小突いた。
「痛いっ。」
「痛いじゃないわよ。家に帰らないで、夜遅くまで六本木で何しているの?」
「スポンサー探し…。」
「何のスポンサー?」
「私…。」
「馬鹿!それって援交じゃない。」
「…お姉ちゃん。わたし学校やめる。」
「何言ってるの!」
「どうせ大学にいく学費もないんだし、学校やめて私も働いて、お金貯めてミュージックスクールへ行きたいの。」
「そんなことは、高校を卒業してからでも遅くないでしょ。」
「…それに私もお母さんの治療費の少しでも出せるようになれば、お姉ちゃんも楽でしょう。このままだったら、お姉ちゃん倒れちゃうよ。」
 真奈美は、ミナミの本意を聞いて、しばらく次の言葉が出なかった。妹を優しく見つめながらその肩に腕を回す。
「心配しなくて大丈夫よ。それより、たった一度しかない高校生活を充分に楽しみなさい。知っての通り、お姉ちゃんは頑丈だから。」
 ミナミは肩を抱いてくれる姉の手に自分の手を重ねて、軽く何度か叩きながら姉の優しさに応えた。やがて、ミナミが身を離して改めて真奈美を眺める。
「ところでさ…今日のお姉ちゃん、どうしちゃったの?」
「なにが?」
「そんな綺麗な服持ってたっけ?靴なんかヒールだし…ヘアセットも…メイクもしてるじゃない。」
「女を忘れるなって人がいてね…全部買ってくれたの。」
 そう言いながらも、真奈美は家へ帰ったら服と靴を全部送り返そうと心に決めていた。
「えっ、彼氏が出来たの?」
 妹は興味津々で姉に迫って来る。
「そんなんじゃないわ。」
「デート?」
「だったらよかったんだけどね。」
「もしかして、金持ちでいい男?」
「確かに金持ちで良い男だったけど…最低の奴だったわ。」
「この際金持ちで良い男なら最低でもいいじゃない。援助交際しなさいよ。」