その時、真奈美は外木戸を開ける音を聞いた。そのあまりもの乱暴な開け方に、真奈美は胸騒ぎを覚える。不安な気持ちで、入口のドアを開けた瞬間、ずぶぬれの男が倒れ込んできた。恐怖のあまり飛びのいた真奈美だが、身動きもせずフロアに横たわるその男の顔を改めて覗き込んだ。泥にまみれてはいたものの、今度は見間違わなかった。真奈美が待ちつづけていたあの、ベルヴェデーレのアポロンである。しかも、彼が後生に抱えてきたボックスの中には、真奈美が産んだあの赤ちゃんが居た。
真奈美は秋良にメッセージが届いたのだと知った。自分が命がけで臨んだ賭けに、ついに勝ったのだ。
「秋良。」
喜びが心の底から湧きあがり、真奈美は、ずぶ濡れになるのも厭わず、秋良の身体に抱きついた。
「ぐふっ。」
秋良が変なうめき声を出す。改めて秋良の身体を見つめ直すと、泥にまみれた彼の肩と腹部から、ドクドクと血液が流れ出ていることがわかった。
「秀麗さん、秀麗さん、来てください。」
真奈美の叫びに、秀麗がリビングに飛び込んできた。
「秋良、あんた、こんな傷で何してたの?」
「警官に…撃たれた…奴らを…振り切るのに…時間がかかって…。」
「喋っちゃダメ。」
秀麗は彼が喋ることを制止した。喋るにあわせて血液が流れ出るのだ。真奈美が涙声で秀麗に訴える。
「血が止まらない…これじゃ失血して死んじゃう。赤ちゃんが戻っても、秋良が居なくなったら意味が無いんです。なんとかしてください。お願いします。秀麗さん。」
「ほんとにもう…。」
秀麗は電話をかけに、キッチンへ走っていった。秋良はボックスを指差し、かすれる声で真奈美に話しかけた。
「こいつさ…俺の声がわかるみたいで…。」
「喋らないで。」
「俺の声聞いたら、笑いやがんの…。」
「もういいから。」
「あ、また笑いやがった…。見えたか?…今…真奈美の鈴が聞こえたからな…それがわかったんだ…。」
真奈美は、アンクレットなど身につけていない。もう秋良の耳には幻聴が聞こえてくるのだ。
「やだ、息をして、お願い。秋良、息をして、私たちを置いていかないでーッ…」
秋良は真奈美の腕の中で、顔に笑みを浮かべながら、目を閉じた。
真奈美は秋良にメッセージが届いたのだと知った。自分が命がけで臨んだ賭けに、ついに勝ったのだ。
「秋良。」
喜びが心の底から湧きあがり、真奈美は、ずぶ濡れになるのも厭わず、秋良の身体に抱きついた。
「ぐふっ。」
秋良が変なうめき声を出す。改めて秋良の身体を見つめ直すと、泥にまみれた彼の肩と腹部から、ドクドクと血液が流れ出ていることがわかった。
「秀麗さん、秀麗さん、来てください。」
真奈美の叫びに、秀麗がリビングに飛び込んできた。
「秋良、あんた、こんな傷で何してたの?」
「警官に…撃たれた…奴らを…振り切るのに…時間がかかって…。」
「喋っちゃダメ。」
秀麗は彼が喋ることを制止した。喋るにあわせて血液が流れ出るのだ。真奈美が涙声で秀麗に訴える。
「血が止まらない…これじゃ失血して死んじゃう。赤ちゃんが戻っても、秋良が居なくなったら意味が無いんです。なんとかしてください。お願いします。秀麗さん。」
「ほんとにもう…。」
秀麗は電話をかけに、キッチンへ走っていった。秋良はボックスを指差し、かすれる声で真奈美に話しかけた。
「こいつさ…俺の声がわかるみたいで…。」
「喋らないで。」
「俺の声聞いたら、笑いやがんの…。」
「もういいから。」
「あ、また笑いやがった…。見えたか?…今…真奈美の鈴が聞こえたからな…それがわかったんだ…。」
真奈美は、アンクレットなど身につけていない。もう秋良の耳には幻聴が聞こえてくるのだ。
「やだ、息をして、お願い。秋良、息をして、私たちを置いていかないでーッ…」
秋良は真奈美の腕の中で、顔に笑みを浮かべながら、目を閉じた。



