当然のことながら代議士夫人は、本物の拳銃を向けられた経験なぞない。眼の前に据えられた拳銃の銃口を見ると、いくら威圧的に言おうとしてもその声は震えていた。
「最後の最後で、プロにはなれませんでした。申し訳ありません。」
秋良は銃口を夫人に向けたまま、じりじりと出口に向かう。もちろんもうひとつの手には新生児ボックスが握られている。用心棒たちは間合いを詰めはじめた。秋良は、拳銃の銃口を上に向けると一発発砲した。悲鳴とともに地面に這いつくばる婦人と男達。その隙に秋良は脱兎のごとく外へ出た。その瞬間、到着したパトカーと遭遇。警官は銃を抜いて秋良に狙いを定め『フリーズ』と叫ぶ。秋良は一瞬その動きを止めた
「そいつは、赤ちゃん泥棒だ! 」
病院からの誰かの叫びに、警官たちの眼の色が変わった。彼らが銃を構えたままにじり寄って来る。ここで警官に捕まってしまったら、いくら真実を伝えたところで、代議士夫人の地位と影響力には対抗できない。秋良は腹を決めた。そばにいるタクシーの運転手を銃で脅して外にたたきだすと、自分が運転席に飛び込む。彼の動きとともに警官たちが一斉に発砲した。秋良は、鎖骨と脇腹に焼けるような熱さを感じた。それでも彼はボックスに銃弾が当たらないように身体で庇いながら、アクセルを精一杯踏み込んだ。
クアラルンプールの人々は、天気予報を話題にしない。天気予報が出ても、「晴れときどき曇り、所によっては一時カミナリを伴った豪雨」という予報ばかりだ。今日は雨が降りそうだからといって傘を持って出かける人もいない。入道雲が立ちのぼり風向きが変わったなと思ったら「雨のニオイ」とともにザァーと降り出す。しかし、どこかで時間をつぶしていれは30分程でまた太陽が照りつけるのだ。真奈美は隠れ家の入口のそばにある大窓から、やがて止むはずのクアラルンプールの雨を眺めていた。
秀麗が買ってきた食事を取り、ベッドで少し休んだ真奈美は、多少体力を取り戻した。痛いほど張ってくる乳房が、母乳の行き先を求めて真奈美を苦しめた。病院を出てからもう一日が過ぎようとしていが、秋良も赤ちゃんもまだ帰ってこない。私は取り返しのつかないことをしてしまったようだ…。徐々に言い様もない後悔と絶望感が真奈美に忍び寄ってくる。
「最後の最後で、プロにはなれませんでした。申し訳ありません。」
秋良は銃口を夫人に向けたまま、じりじりと出口に向かう。もちろんもうひとつの手には新生児ボックスが握られている。用心棒たちは間合いを詰めはじめた。秋良は、拳銃の銃口を上に向けると一発発砲した。悲鳴とともに地面に這いつくばる婦人と男達。その隙に秋良は脱兎のごとく外へ出た。その瞬間、到着したパトカーと遭遇。警官は銃を抜いて秋良に狙いを定め『フリーズ』と叫ぶ。秋良は一瞬その動きを止めた
「そいつは、赤ちゃん泥棒だ! 」
病院からの誰かの叫びに、警官たちの眼の色が変わった。彼らが銃を構えたままにじり寄って来る。ここで警官に捕まってしまったら、いくら真実を伝えたところで、代議士夫人の地位と影響力には対抗できない。秋良は腹を決めた。そばにいるタクシーの運転手を銃で脅して外にたたきだすと、自分が運転席に飛び込む。彼の動きとともに警官たちが一斉に発砲した。秋良は、鎖骨と脇腹に焼けるような熱さを感じた。それでも彼はボックスに銃弾が当たらないように身体で庇いながら、アクセルを精一杯踏み込んだ。
クアラルンプールの人々は、天気予報を話題にしない。天気予報が出ても、「晴れときどき曇り、所によっては一時カミナリを伴った豪雨」という予報ばかりだ。今日は雨が降りそうだからといって傘を持って出かける人もいない。入道雲が立ちのぼり風向きが変わったなと思ったら「雨のニオイ」とともにザァーと降り出す。しかし、どこかで時間をつぶしていれは30分程でまた太陽が照りつけるのだ。真奈美は隠れ家の入口のそばにある大窓から、やがて止むはずのクアラルンプールの雨を眺めていた。
秀麗が買ってきた食事を取り、ベッドで少し休んだ真奈美は、多少体力を取り戻した。痛いほど張ってくる乳房が、母乳の行き先を求めて真奈美を苦しめた。病院を出てからもう一日が過ぎようとしていが、秋良も赤ちゃんもまだ帰ってこない。私は取り返しのつかないことをしてしまったようだ…。徐々に言い様もない後悔と絶望感が真奈美に忍び寄ってくる。



