無駄だとはわかりつつも代議士夫人に存続の約束を取り付けたいと、秋良が話し始めたが、彼は不思議なものを感じ、途中で言葉を切った。誰かが俺を見ている。手を胸ポケットに入れたまま、その感覚がやって来る先を探ると、新生児ボックスにいる赤ちゃんが、見えるはずもない瞳を自分に向けているのだ。今度は、赤ちゃんを見ながら言葉を続けた。
「…プロとして認めていただきたいですね。」
あるはずもない、しかし秋良には見えた。赤ちゃんが自分を見ながらわずかに笑い、そして小さな、本当に小さな手の平を広げ、自分に向って差し伸べているのだ。こいつ、俺の声が解るのか。そう思った瞬間、秋良の脳裏に、真奈美と過ごした記憶が、コップに移したサイダーの泡のように弾け上がる。記憶のフラッシュ映像はもう止めることができなかった。
真奈美との出会い、ケンカ、ストーカーからの救出、一緒にした買い物、そして初めてのセックス。妊娠を確認した時の真奈美の顔、つわりでトイレに飛び込む真奈美、喰い続ける真奈美、そして不格好にも大きなお腹を突きだして歩く真奈美。自分は手のひらをポクンと押されてこの子と出会った。エコーの映像ではよくわからなかったが、ベッドに入ってきた真奈美のお腹を触ってこの子の姿を思った。何と言っても極めつけは、先程味わった分娩室での闘いと、生まれ出たこの子との直接の出会いだ。ああ、そうだ。この子がここにいることには意味がある。でも、その意味は誰にもわからないだろう。きっと真奈美と自分だけにしかわからないのだ。
秋良は胸ポケットから出生証明書を出す代わりに、小型の拳銃を取り出した。クアランプールに到着した夜、街の闇ルートで仕入れたカー(Kahr)CW380。全長12・6センチだが殺傷力のある本物の拳銃だ。
「あなた、何出してるの?」
拳銃を見て驚き叫ぶ代議士夫人。
「その新生児ボックスをよこせ。」
拳銃を夫人に据えたまま、威嚇的な視線で秘書に言った。秘書は、夫人の顔色を見ながら、渋々ボックスを秋良に渡す。やがて異変に気付いた現地の用心棒たちが、秋良の周りに集まってきた。秋良の拳銃を見て騒然とする病院内。病院のスタッフはすぐに警察に通報した。
「あなた、そんなことしたら、生きて日本には戻れないわよ。」
「…プロとして認めていただきたいですね。」
あるはずもない、しかし秋良には見えた。赤ちゃんが自分を見ながらわずかに笑い、そして小さな、本当に小さな手の平を広げ、自分に向って差し伸べているのだ。こいつ、俺の声が解るのか。そう思った瞬間、秋良の脳裏に、真奈美と過ごした記憶が、コップに移したサイダーの泡のように弾け上がる。記憶のフラッシュ映像はもう止めることができなかった。
真奈美との出会い、ケンカ、ストーカーからの救出、一緒にした買い物、そして初めてのセックス。妊娠を確認した時の真奈美の顔、つわりでトイレに飛び込む真奈美、喰い続ける真奈美、そして不格好にも大きなお腹を突きだして歩く真奈美。自分は手のひらをポクンと押されてこの子と出会った。エコーの映像ではよくわからなかったが、ベッドに入ってきた真奈美のお腹を触ってこの子の姿を思った。何と言っても極めつけは、先程味わった分娩室での闘いと、生まれ出たこの子との直接の出会いだ。ああ、そうだ。この子がここにいることには意味がある。でも、その意味は誰にもわからないだろう。きっと真奈美と自分だけにしかわからないのだ。
秋良は胸ポケットから出生証明書を出す代わりに、小型の拳銃を取り出した。クアランプールに到着した夜、街の闇ルートで仕入れたカー(Kahr)CW380。全長12・6センチだが殺傷力のある本物の拳銃だ。
「あなた、何出してるの?」
拳銃を見て驚き叫ぶ代議士夫人。
「その新生児ボックスをよこせ。」
拳銃を夫人に据えたまま、威嚇的な視線で秘書に言った。秘書は、夫人の顔色を見ながら、渋々ボックスを秋良に渡す。やがて異変に気付いた現地の用心棒たちが、秋良の周りに集まってきた。秋良の拳銃を見て騒然とする病院内。病院のスタッフはすぐに警察に通報した。
「あなた、そんなことしたら、生きて日本には戻れないわよ。」



