少しずつ暖かくなってきた5月。

荻野さんの決意に圧されて頷いた日から、
もうすぐ1年が経とうとしていた頃。


ある日の仕事帰り。

夜の散歩で歩いた道を通りながら
携帯を取り出した。


「'もしもし'」


雑音の向こうに、
荻野さんの声が聞こえた。

何度も、躊躇った。

なんでもないと言って
電話を切ることも出来た。
関係のない話をして
また明日ということも出来た。


でも、口は勝手に動いていった。