杏ちゃんも向こう側に

「おはよ、エマ」

杏ちゃんはいつも通り、アパートの玄関先で待っていた。

「…おはよう」

ちょっとだけ沈みがちな朝のテンション、直感的にもう戻れないなと思った。

杏ちゃんは私の言葉が終わらないうちにくるっと巻いた毛先を私に突き出して、「どう?」と小首をかしげた。

ふわりとコロンの香りがする。いちごだ。


「いや、どうって」

「巻いてみてん」


見たらわかるわ。という言葉を飲み込んだ。杏ちゃんの濃く長くなったまつげを見ると、喉元がぶるりと震えた。


「ええんちゃう?」

「ほんまー?」


笑うとぱあっと華やぐ杏ちゃんの笑顔はどっかの女優さんみたい、ああ例えるとすれば月9の女の子かな。

私はうん、と頷いて、思わずため息をつきかけて、飲み込んだ。

砂の流れを、頭の中で再生する。

さらさらさらさら

流れろ流れろ。