とーやを置いて学校を出た私は、伊織とある場所にいた。



「さて、と。では話してもらいましょーか…と言いたいところなんだけど」



伊織は腰に片手を当てて、眉間にしわを寄せながら私を見た。



「…言いたいところなんだけど?なに?」



伊織の不満げな表情の理由がわからない。

小首をかしげて見上げるとため息が降ってきた。


「…はぁ。なにって聞きたいのはあたしの方よ。なんでこんなところにいるのか理由を聞かせてくれませんかねぇ、愛美さん」


「なんでって…マフィンを作るためだけど」



今、私がいるのはスーパーの製菓コーナー。
その棚の前でしゃがみこんで材料を選んでいる最中なのだ。



「マフィンって…砂原に?」



「うん。とーや食べたかったみたいだったし。それに、次は失敗しないよ!!」


ぐっとこぶしを握りしめると「どこからその自信がくるの」と言いたげな伊織と目が合った。

まあ、今日のマフィンの出来を見たらそう思うのも仕方ない。