百合と俺の小指が離れたその瞬間、何の前触れのなく船が止まった。


スクリューの音やエンジンが消え、辺りは波の音に包まれる。


「なになに? どうしたの?」


春姫がキョロキョロと周囲を見回す。


「もしかしてここで沢山のイルカが見えるとか!?」


先ほど見たイルカを思い出し、彗がすぐに船の先端へと駆け寄った。


「まじ? イルカの大群?」


嵐と良もそれにならって移動する。


しかし、キラキラと光って見えるイルカの背中はどこにも見当たらない。


「どうしたんだろう……」


最初に不安な表情を浮かべたのは百合だった。


「大丈夫だろ?」


俺はそう返事をしながら、百合の手を握った。


百合の手はやっぱり不安になるほど細くて小さかった。