『盗賊さん!!』


『わっ…!』


突然響いた声と共に、リディルの背中に何かがぶつかった。


『キュア…!隠れていろって言ったろ…!』


そこに居たのはキュアウィッチだった。
まだ麻酔が少し残っているようで、足元がおぼついていない。


『嫌です!!』


キュアウィッチは倒れ込むように、リディルへと抱きついた。


『例え…例え、世界中がアナタのことを要らないと言ったとしても、私にはアナタが必要です!
だから…もっと自分を大切にしてください…』


キュアウィッチは泣きながら、リディルの胸に顔を埋めてきた。


『む…これ、妾を差し置いて愛の告白とは良い度胸をしておるな』


ずっと二人の会話を聞いていた女が、ふてくされたような表情で二人へと声をかけた。


『え!?愛の告白…!?
私はそんなつもりで言ったわけでは…』


顔を上げたキュアウィッチが慌ててリディルから離れる。
リディルは顔を真っ赤にして俯いたまま微動だにしない。


『くく…若いのぅ…』


初々しい二人の反応に、女は思わず表情を綻ばせた。


そんな3人の様子をドラゴンの頭上から見下ろしているドラゴンウィッチは、まだ混乱している脳内を整理できないでいた。


(アイツから魔女の気配…?どういうこと…?
今の今まで私が関知していた魔女の気配はキュアのもの、1つだけだったはず…。
つまり、あの魔女は私の関知範囲外から一瞬にしてこの場所まで来たってこと…?)


ドラゴンウィッチは動かなくなった蛇竜の脳天に突き立っている銀剣へとゆっくりと視線をやる。

(こんな芸当ができる魔女はアイツしかいない…)


ドラゴンウィッチは、突然現れた黒いコートの魔女が一体誰なのかを理解した。


『ソードウィッチ…!!』


ドラゴンウィッチの口をついて出たのは、世界一の賞金首である魔女の名だった。


今や希少な存在といえる旧時代の魔女であるソードウィッチは、王都の圧政から各地の村や町を解放しており、その魔力は王都に仕える魔女たちすら蹴散らす程のものだ。


『あの…助けていただいてありがとう御座います。貴女も…魔女なんですね』


キュアウィッチがソードウィッチへと近づきペコリと頭を下げる。


『ああ、そうだ。
妾の名はソードウィッチ。キュア、リディル…。会いたかったぞ』


ソードウィッチは優しい笑みを浮かべ、並んでいる二人を両腕で抱き寄せた。
懐かしい声と香りと体温に包まれ、キュアウィッチもリディルと同様に確信した。


(私は…この人を知っている)