『急いで!こっちだ!』

少年とキュアウィッチは手を繋ぎ、視界の悪い足下に目もくれず木々の隙間を縫うように走っていた。


『あ…!』


ついに、キュアウィッチが木の根に躓きバランスを崩した


『キュア!大丈夫かい!?』


少年が慌ててキュアウィッチの体を支えた間際、頭上からドラゴンの雄叫びが轟いた。


『お願いです!!
私を置いて逃げてください!
アナタだけでも逃げて、村人たちに危険な事をしないように告げてください!』


叫ぶようにそう言ったキュアウィッチは、少年の腕を振り払った。


『嫌だ!!』


少年は力強い瞳でキュアウィッチを見据えた。


『どうして…。
盗賊であるアナタが、見ず知らずの私や村人の為に、そこまで命をかける必要があるのですか…』

キュアウィッチは自分でも気がつかぬうちに、ぽろぽろと涙を溢していた。


『そんな見ず知らずの盗賊に、村人たちは大金を渡し、君を救いだしてくれと頼んできたんだよ…。生まれてこのかた初めてなんだ…誰かに信じて貰えたのは…』


少年は優しく微笑むと、キュアウィッチの涙粒を指で拭った。


『君はその魔力で、どんな病や傷でも癒せる。
聞いたよ…疫病で全滅寸前だったあの村を、君は無償で救ったんだってね…。
そして、勝手な魔力使用がドラゴンウィッチに知られて、捕まったんだろ?』


少年はそこで言葉を切り夜空を仰いだ。
キュアウィッチは潤んだ瞳で俯いたままだ。


『村人たちは言ってたよ。本当はこれっぽちの金じゃ、キュアちゃんにしてもらった恩は全然返せないけど、これから笑顔で生きていける足しに少しでもなれば…って』


少年は懐から金貨が詰まった袋を取り出すと、キュアウィッチの手に握らせた。


『そんな…こんなに頂けません…!
あそこは、こんな額を簡単に用意できるほど豊かな村ではないはずです!』


村中の金貨をかき集めたと思われる袋の中身に、キュアウィッチは驚きの声をあげた。


『簡単じゃないさ。
でも、君を救う為なら安いもんだってさ。
挙げ句の果てに、通りすがりの賞金首の盗賊にそれを託しちゃうんだから…不思議だよね…
キュア…人は君を救う為なら犯罪者だって信じちゃえるんだからさ…』


少年は、戸惑いの表情を浮かべているキュアをそっと抱きしめた。


『その瞬間、気がついたんだ。
犯罪者である僕とは違い、君はこの世界に必要だ…絶対に…!!』


少年はそう言うなり、キュアウィッチの華奢な肩を軽く押した。


『え…?きゃあああ!!』

キュアウィッチの体は、下方にある茂みへと落下して沈んだ。


『そこに隠れているんだよ!
絶対に出てきちゃダメだ!!』


『そんな…ダメです!!』

キュアウィッチは立ち上がろうとするが、脚に力が入らない。

(何…?どうして…?)


『ごめん、さっき軽い麻酔をかけたんだ。
数分もすれば普通に動けるから安心して』




―――バキバキバキ!!


そう告げる少年の声の後に、木々が薙ぎ倒される音と共に、あの巨大なドラゴンが空から舞い降りて来た。


『覚悟はお決まり…か・し・ら?』


舌なめずりをするドラゴンウィッチを満月が照らし出す。