『言ったでしょ?ずっとソードと話したかったって。
私はあの日の戦場で体を失ったけど、何故か意識だけはこうやってソードの傍にずっと居れたんだよ』


『ずっと見ておったのか…』


人懐っこい魔女の言葉に、ソードは何だか恥ずかしいような嬉しいような不思議な気分になり、苦笑いを浮かべ俯いた。


『でも、それも今日で暫のお別れ…』


人懐っこい魔女はそう言って、少しだけ哀しげに微笑んだ。


『別れ…?何故だ?』


ソードウィッチは、朝靄に少しずつ溶け込みだした魔女へと歩み寄った。

『もう、大丈夫…。
ソードは災厄の魔女なんかじゃない…。
強く優しい最強の魔女になったんだから…』


そよ風に掻き消されそうな声に、ソードウィッチは思わず手をのばす。


『待って…待ってくれ…!!やっとで思い出せたのだ貴様の名前を…!!』


古き記憶の片隅に眠っていた映像がソードの脳裏に浮かぶ。


幼い魔女の元気な自己紹介も…
そのあまりの大声っぷりに、飲んでいた酒を口から吹き出したことも…
それから数十分、その魔女を追い回したことも…

気が付けば、背後をトコトコと付いて来ていた懐かしい笑顔も…


あの日の戦場で、自分を庇って死んだ心優しい魔女の最期を…


全部…全部を思い出した。


『その名前は…また…いつか…出逢えた時に呼んで…』


光の粒となり、空中に分解してゆく人懐っこい魔女は、最後にそう言い残して風に消えていった。



地平線の彼方より輝く朝陽が、まるで道しるべかのように進むべき道を映しだす。


丘に立つソードウィッチは、確信に満ちた表情で長く遠く険しい旅への第一歩を踏み出した。






『待っておれよ貴様ら…。必ず…逢いにゆくからな』






―――必ず…!―――