遠くの空は明るみだして新しい朝が世界を染めてゆく。


丘に立ち尽くしているソードウィッチは、完全に焼け落ちた屋敷を呆然と見つめていた。


やがて、涙もすっかり枯れたその瞳は、立ち昇る煙りの筋に誘われるように空へと向けられる。


大地を何度も、何度も拳で叩きつけ狂ったように泣き叫んでいたせいで、その両手は血まみれになっていた。


(今まで…こんな思いを…妾は大勢の人間にさせてきたのか…)


自らの戦闘欲にかられて奪ってきた無数の命に懺悔し、血に染まる手をまだ薄暗い空に翳した。




ソードウィッチは、あの灼熱の炎の中リディルの胸を剣で刺し貫いた。


それは、
これだけ自らの手を痛めつけても消えなかった別れの感触として、これからずっと連れて行かねばならない咎。


― 愛してる…永遠に ―

瞼を閉じる前にリディルがくれた最期の言葉は、これから始まる長い旅に敷かれた唯一の希望だった。




『ソード…』


不意に、丘を撫でるように吹いてきた柔らかな風に呼ばれ、ソードウィッチは振り返った。


『やっと逢えたね!』


そこに居たのは、遠い昔に戦場で散ったはずの、あの人懐っこい魔女だった。


その姿はどこか透明的で、直感でこの世のものではないと判断できた。


『妾を…断罪しに来たのか…?』


ソードウィッチの問いかけに、その人懐っこい魔女は首を横に振り笑顔を浮かべた。


『私は嬉しいんだよ!
ずっと、こうやってソードと話したかったんだから!!』


『妾と…?』


『そう!ソードいっつも怖い顔して全然、私と話してくれなかったんだもん!』


人懐っこい魔女は、戸惑っているソードウィッチに構わず元気良くその場で飛び跳ねている。


(変わらぬな…)


その光景に、遠い昔を思い出したソードウィッチの表情が思わず綻んだ。


『あ、笑った!』


その言葉に、ソードウィッチは思わず目を丸くした。


『…って、リディル君なら言うだろうね』


人懐っこい魔女はそう言って優しい笑みを浮かべている。


『リディルを知っておるのか!?』


ソードウィッチの驚きを隠せない声に、人懐っこい魔女は無言で頷いた。