鬼伐桃史譚 英桃


「ありがとう」

 二人が頷くと、安堵(あんど)したのか。彼女の口元がほころんだ。

 微笑を浮かべる彼女はとても美しい。

 ――天女。彼女はまさしくそれだろうと英桃は思った。


「…………」


 いったい何時(いつ)までそうしていただろう。しばらくの間、刻が止まったかのように英桃は少女を見つめていると――ふと、横でにやにやと笑っている茜に気がついた。



「オレの名は英桃。茜と南天」

 英桃は居心地が悪くなって慌てて自己紹介をした。

「あ、わたしは、お……櫻(さくら)と言います」

 彼女は何かを言おうとしたのか。途中で口を噤(つぐ)み、そして言い直した。

「……櫻。いい名だね。よろしく」


 彼女の言った名はおそらく偽りだろう。だが、これをあえて問う必要はない。


 彼女もまた、英桃と同じように苦しい思いを抱いていることを知ったからだ。


 立場は違えど志は同じ。

 英桃はそう思った。