「ええい、しつこいぞ」
若侍はすがる少女を煩(わずら)わしいと思ったのだろう、彼女の手を振り解いた。
「あっ!」
「危ない」
若侍の力によって、少女は体勢を崩し、倒れ込む――そのすんでのところで英桃は少女を抱きとめた。
「大丈夫?」
「……ありがとう」
英桃は少女が無事なことを確認すると、彼女を振り払った若侍に鋭い眼光を放ち、見据(みす)えた。
「見たところ、たいそう身分のある御旗本(おはたもと)のご身分であらせられるようですね」
「いかにも。儂(わし)は直参旗本の出である」
英桃の言葉に、男は鼻息を荒くして応える。
町人や村人たちを守らねばならないその武士が、こともあろうに自分の家柄を鼻にかけ、他人を下に見る男の愚行(ぐこう)が英桃の癇(かん)に触る。
「帝の御身を預かる武士ともあろう方がいささか乱暴ではございますまいか?」



