鬼伐桃史譚 英桃


 しかし、彼らの言葉に甘えることはできない。


「一緒には行けない」

 英桃は静かに首を振った。

「なんで?」

 南天が眉根を寄せ、訊ねた。

「だってとても危険な旅になる」

 茜や南天の身に何かあれば、二人の親御さんはたいそう悲しむだろう。それは父を亡くした自分が一番よくわかっている。もし父が生きていればと何度考えたことか。


「そんなのは俺らだって同じだ」

 茜がそれは違うと首を振った。

「ねぇ、英桃。そんなの僕だって同じだよ。英桃がいなくなれば悲しい。僕たちは兄弟のように育った仲じゃないか」


 南天が茜に続いてそう言った。


 英桃の胸にあたたかなものが込み上げてくる。

「茜、南天……。オレは……」

 込み上げてくる涙が喉に詰まって何も言えない英桃に、茜は握り拳を頭上に掲げた。

「行こう、たとえ血が繋がらなくたっって俺らは兄弟じゃねぇか」