鬼伐桃史譚 英桃


「英桃、木犀様は鬼を封印する前日、こうも仰っておいででした。『わしも英桃の未来が見たい』と――」


 菊乃の唇が一度閉ざされる。その後にまた開いた――。



「英桃。貴方もまた退治屋の血が流れているのです。お行きなさい。父の仇(かたき)を討つため――如いてはこの国に平和を取り戻すために」


 実の子、英桃を前にして、命をかけて戦に行けと無常に言い放つ菊乃の表情は何もなかった。


 だが、昨夜聞いた菊乃のあの言葉は――声は嘘偽りなどではない。彼女の胸の内では、『英桃よ、許してほしい』心の中では涙すら流し、それすらも押し隠して気丈に振る舞っているのだと、英桃は思った。


 自分も父と同じ道を歩む。

 いつも気丈な母上の心情――。その真実は英桃を思い、泣いていたのだと知る。



「はい、母上」