『父は不運な事故に巻き込まれ、命を落とした』

 英桃が物心ついた時、母である菊乃からそう聞かされていたのだ。

 しかし実際は、父親は鬼との死闘の末命を落としたというのか。

 この会話が真実なのであれば、なぜ母は偽りを自分に話したのであろうか。母親の心を探るため、英桃は息をするのも忘れて隣の座敷で語られる過去の話に集中する。


「木犀殿を亡くした後でございます。酷(こく)かもしれませんが、残された時間はもはやありません。鬼が桜華(おうか)姫を捕らえるよりも先に、一刻も早く英桃殿を世にお出しください。それは退治屋の長として木犀様のお子である、英桃殿にしかできないことでございます」


『退治屋の長』

 男はそう言うと、それっきり声は聞こえなくなり、代わりに菊乃のすすり泣く声が座敷から聞こえる。