何やら話し声が聞こえる。

 夜もすっかり深まった頃、床についていた英桃(えいとう)だが、ふと何気なく目を覚ました。



 隣の座敷からは母菊乃(きくの)が誰(たれ)かしらと話している声がする。相手は嗄(しわが)れた声をもつ男だ。


 果たして今時分に母はいったい誰と話しているのだろうか。

 まるで密談をするような二人の話し声に、内容が気になった英桃は聞き耳を立て、話のやり取りを聞くことにした。


「――――」


「木犀様が鬼に殺されてから、もう十六年でございますな」

 誰かしらの男が言った。……ええ。と菊乃は頷き、さらに男が話す。

「木犀様のお力で、蘇芳(すおう)様のお子、一の姫様と二の姫様の中に大鬼を封印することができました。ですが、その大鬼の仲間は今、一の姫様を攫いました」


 その内容に驚いたのは英桃だ。

 それもそのはず、英桃は自分の父親が鬼に殺されたという事実を知らなかったからだ。