怒れる主と化した彼の名は、柊南天(ひいらぎなんてん)。彼はしっかり者で責任感が強い。悪戯をする茜の監視役と言っても過言ではない。
そして彼がこれほどに怒っている理由というのにも、英桃は察しが付いていた。
「げっ! 南天!!」
茜は向かい来る南天から後ずさる。
「『げっ!』じゃない!! また海印(かいいん)さん家の木から林檎を無断でとっただろ!!」
――ああ、やはりそういうことか。
南天の言葉に、英桃は右手にある真っ赤な林檎を見つめた。
茜は口笛を吹き、なんとかこの場をやり過ごそうとしている。悪びれもしないその態度がとうとう南天の逆鱗(げきりん)に触れた。
「ごまかすなああああっ!」
雲ひとつない、青が広がるその空に、南天の怒号が響き渡る。
その聞くのも見るのもおぞましい南天に、木々からは烏(からす)が慌てて去っていく。



