鬼伐桃史譚 英桃


「こらっ! 茜!!」


 突如として背後から男の子が持つ特有の低い声が茜の後方から聞こえ、英桃は振り返った。そこには金色の輝く腰まである長い髪を後ろで束ねている美しい男の子がいた。肌も白く、長い睫毛に高い鼻梁。見た目は女性のようにも見える彼は忍の里に住む同じ年頃の、どの男の子よりも背が高い。しかも薄い唇はどことなく凛々しく、肩幅だってある。年は茜と同じく十七、八歳あたり。赤という目立つ忍装束を着ていても、けっして不格好に見えないのは、それだけ彼の顔つきが整っているからだろう。


 ひとたび微笑めば、男の子(おのこ)でも女の子(めのこ)でも彼の虜になるだろうが、今はそうではない。形のよい弧を描く眉の上に青筋を立て、怒っているのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ。彼は整った顔立ちをしているから、よけいに怒気を含むその表情が末恐ろしく見える。


 その怒る主が大股でこちらへと向かってくる。まるで地響きが聞こえてきそうなくらいだ。