「じゃ次はお兄ちゃんの番ね」
そう言われ思わず身構える。
「え?俺?」
「亜弓ちゃんとどうなってるの?」
「あー……、まだ良いお友達どまりかな」
「へぇー、その割に仲良いけどね」
「そうかな、普通だろ」
「この前だってイチャイチャしてたじゃん」
「は?イチャイチャ?」
全くなんのことか分からなくて詳しく聞くと、凜曰くこの前、亜弓ちゃんが俺の頭をコンコン叩いてたところ、と言う。
「それイチャイチャじゃないだろ、小競り合いだろ」
「えーイチャイチャだって」
「いいや、違うね」
「私はもう大丈夫だから、早く亜弓ちゃんのこと安心させてあげて。もう、やきもち焼いて困らせたりしないから」
「分かってるよ。でもあいつも頑固でね」
「亜弓ちゃん頑固なの?」
「頑固だよ、今だってもう付き合ってるのも同然なのに、もう少し凜が大きくならないとダメって言い張って聞かなくてね」
「な、なんで?」
「なんでだろうな、俺も知りたい。本人に聞いといてよ」
道中、そんな話をしながらやっと海へたどり着いた。高い太陽、今日は風も穏やかでただ立っているだけでも汗ばんでくる。絶好の海水浴日和といわんばかりに、海水浴場は人ごみでごった返していた。
凜も足だけ浸かりたいと、二人で駐車場から砂浜へ降り人がなるべくいない海へ向かう。カンカンの太陽に熱された砂浜は素足ではとてもじゃないけど立ってられず、持ってきたビーチサンダルを取り出してそれに履き替えた。
海を見て気持ちが逸るのか、珍しく凜の目が童心に返ったようにキラキラしている。ワンピース着ている凜はパシャパシャと足だけ海に浸かり、俺の方へ思い切り足を蹴り上げた。
「冷たっ」
水しぶきをかけられ思わず逃げの態勢に入ると凜がニコニコしながら誘ってきた。
「お兄ちゃんもズボンまくって入ったら?」
正直、海なんてベタベタするし入るもんじゃないと思っていたが、入ってみれば思いの他気持ち良かった。水面が反射して綺麗、冬の海の方がどちらかというと情緒的で好きだったけど夏の海も良いものだと思えた。何より凜が喜んでいるのがでかい。
「水着持ってくれば良かった」
「今度また来ればいいよ」
「うん、皆で来たら絶対楽しいよね。社長さんとおばちゃんと、亜弓ちゃんと川崎さんと渡辺さんと」
「そうだな」
そう言って足を海の家のシャワールームで洗い車へ戻る。以前話していた通り、近くのお店で海鮮丼を食べて帰路につくことに。


