翌日、目を赤くしたまま職場へ行き何事かと聞かれ、昨日の一部始終を皆へ話した。
「もう凜の成長に追いつけなくて、どうしたら良いと思う?」
「あーもうそろそろ妹離れしないとなぁ」
「分かってるんだけど、それがもう寂しすぎて。その後もさ、凜の昔のDVD見て一人泣きながら晩酌してたら凜にキモいって言われて、昔はそんなこと言う子じゃなかったのに」
肩を落とす俺に、まぁまぁと川崎が慰めてくれる。亜弓ちゃんの方は顔をひきつらせながら、辛辣に言い放った。
「いやいや、さすがに気持ち悪いでしょ」
何も擁護できないと吐き捨てるように言うもんだから、鬼を見るような目を向けて、うんうんと聞いてくれる川崎に泣きついた。
そんな中、社長に声をかけられる。
「お前の親戚だっていう奴が表に来てるんだけど、海斗って奴知ってるか」
「海斗……、あーっ」
パッと思い出せなかったが、しばらく頭を巡らせるうちに思い出し外へ駆け出した。
「あつしくーん」
そうやって俺を呼ぶ軽い声の調子は変わらない。海斗とは学年が三つ下の従弟にあたる。親がいなくなった頃から、疎遠になっていた親戚だった。
「海斗、久しぶりだなー!」
「会えて良かった、探したんだよ」
最後に会ってからもう10年程経っていたけど、こうやって顔を合わせただけでお互いを思い出せた。最後に会ったのは確か俺が20になる前で、海斗の方はまだ高校生だったか。
しかし人の成長ってのは凄い。こうやって思い出せる位、面影は残っているのだが、高そうなスーツに後ろには海斗のものと思わしき青いBMが停められている。確か最後に会った時は、家業が上手くいっていなくて叔父さんが金銭巡りに翻弄してるっていう噂を聞いていたのだが、今の海斗からは逆に金の匂いしか感じられない。
俺が不審に思ったのを察したらしく説明し始めた。
「いやーあの後、もうお先真っ暗ってとこまで落ちたんだけどさ、まぁ人生何があるか分からないってやつで。今じゃ裕福な暮らしさせてもらってるんだ」
「何はともあれ、元気そうで良かった、叔父さんと叔母さんも元気?」
「あー、あれからオヤジ死んじゃったんだよね。でも母さんは元気だよ」
「えっ?そうなのか?でもまだ若かっただろ、なんでまた……」
「あの頃本当大変でさ、自分にかかってた保険金目当てで首吊っちゃって。で、俺と母親残して一人逝っちゃったんだけど、そんなことされたら何が何でも二人で生きてかなきゃって、そのお金で借金の一部返して、生活費やりくりして。で、そのお金を元手に事業起こして、まぁとんとんと運良く成功したって感じ」


