「凜、やっぱり彼氏とかそういうのはまだ早いと思う」
「じゃ、いつになったらいいの?」
「そもそも、好きになるってことちゃんと分かってるのか?あいつのこと本当に好きなのか?どこが好きなんだ?」
そう問い詰めると、案の定凜からはっきりとした答えは返って来ない。
「……そんなの分からないよ。でもそれってさ、付き合ってから学んでっても良いんじゃないの?」
「何言ってんだ、好きじゃないのに付き合うなんておかしいだろ」
「別にいいじゃん、好きになれそうだから付き合ったって」
「なれなかったらどうするんだ、相手が傷つくだろ」
「大丈夫、彼、そこまで私のこと好きじゃないの分かってるから」
「だめだ、だめだ、好奇心で人と付き合うんじゃない。あの世代の男子なんて考えてること皆一緒だし、わざわざそれに付き合ってやる必要ない」
「別に男子だけじゃないでしょ、女子だって同じようなもんだよ」
「え?」
「普通にキスしてみたいなとかセックスってどんなものなんだろうって思うもん」
そのセリフに思わず脱帽してしまう。まさか凜の口からそんな言葉が出てこようとは。錯覚かもしれないが、一瞬ぐらっと視界が揺れたようにも感じた。
「……だめだ、お兄ちゃん具合悪くなってきた」
「亜弓ちゃんに慰めてもらったら?」
そう冷たく言い放って自分の部屋へ行ってしまった。それを呼び止める元気も残っておらず、こうなったらもう飲むしかないと冷蔵庫からとっておきの日本酒を取り出しておちょこへ注ぐ。
凜の小さかった頃を思い出しながら飲んでいると、視界が涙ぐんでくる。凜の成長についていけない、男と付き合うなんていう現実を受け入れたくない。全部自分の我儘なのは分かっていた。それでも嫌なものは嫌なのだ。
凜の小さかった頃のDVDを引っ張り出してきて、それを肴に一人涙する。暗いリビングで一人鼻水をすする姿に、背後から非情な言葉が投げかけられた。
「……え、キモ」
その凜のセリフに更に泣けてきてことのほか酒が進んだ。


